中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

AIを入れるのに、いくらかかるのか分からない

調べても金額がばらばらなのは、情報が足りないからではない。金額を示しているのがいずれも売っている側であり、値段が使い道の側で決まるためである。国の調査でも、日本の企業がAIについて最も多く挙げた懸念は費用ではなく「効果的な活用方法がわからない」だった。

AIを使ったほうがいいらしい、という話は方々から聞く。取引先も何かを始めたようだし、同業の集まりでも話題に出る。では、うちで入れるとしたらいくらかかるのか。調べてみると、月に数千円と書いてあるページもあれば、数百万円という数字が並ぶページもある。桁が三つも四つも違う。予算の見当がつかないので、社内で話を始めることもできない——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 検索して出てきた金額が、ページによって桁ごと違う。どれを見ればいいのか分からない。
  • 業者に聞いてみたが、「やりたいことによります」と返ってきて、話が進まなかった。
  • 見積もりを取ろうとしたが、何を頼みたいのかを自分で説明できず、そこで止まった。
  • 月額の安いものを試してみたが、何に使えばいいのか分からないまま、翌月には開かなくなった。
  • 高い買い物になるのが怖くて、話を始める前に判断を止めている。
  • 「相場はいくらですか」と聞いたら、相手の会社の価格表が出てきた。

金額が分からないのは、調べ方が足りないからではない。この買い物には、先に決まっている値段が存在しない——その性質のほうに理由がある。

ノートパソコンの画面に並んだAI導入費用の説明ページ。月額数千円と数百万円の数字が同時に開かれており、その手前でメモ用紙に「予算?」とだけ書かれている様子

たいてい、こう考える

金額が分からないとき、たいていは二つのどちらかに進む。

一つは「相場を調べる」。他社がいくら払っているのかが分かれば、自社の予算の見当がつく。買い物として、いたって普通の手順である。

もう一つは「とりあえず見積もりを取る」。何社かに声をかけて、出てきた金額を比べる。これも普通の手順で、間違ってはいない。

だが、この二つはどちらも、先に値段があって、それを確かめに行くという前提に立っている。パソコンを買う、車を替える、事務所を借りる——そうした買い物なら、この前提は正しい。相場があり、比べれば分かる。ところが同じやり方をAIに当てると、桁の違う数字が並び、比べられないまま止まる。前提の側が、この題材には合っていない。

だが、本当の問題は「相場が分からないこと」ではない

まず、事実を一つ置く。AIの導入費用について、公的機関が示している相場は見当たらない。 統計として公表されているのは、活用の方針を決めているかどうか、どんな懸念を持っているか、といった内容で、「導入にいくらかかるか」という形の数値は出てこない。少なくとも、誰もが参照できる中立の目安としては置かれていない。

一方、検索して出てくる金額は、いずれもAIの導入を請け負っている会社が、自社の価格として示したものである。それぞれ正確に書かれているのだろうが、扱っている中身が違えば金額も違う。文章の下書きに使う道具の月額と、業務の仕組みを一から作る費用が、同じ「AI導入費用」という言葉の下に並んでいる。桁が違って見えるのは、同じ名前で違うものの値段を見ているからである。

では、なぜ相場が定まらないのか。AIの費用は、買うものではなく、使い道の側で決まるからだ。何をどこまで任せるのか、既存の仕組みとつなぐのか、扱う情報に何が含まれるのか——これが決まらない限り、金額は決まらない。決まっていない状態で値段を聞くと、相手が「たぶんこういうことだろう」と中身を仮に置いて、その中身の値段を出す。つまり、使い道を決めずに見積もりを取るという行為は、何を作るかを相手に決めてもらう行為に近い。 相場を聞くほど、値段は相手の設計で決まっていく。ここが、この困りごとの核心にあたる。

そして、これは日本の企業自身の回答としても表れている。総務省の白書に載っている国際比較の調査では、生成AIの導入に際しての懸念として、日本の企業が最も多く挙げたのは「効果的な活用方法がわからない」で、30.1%だった。初期にかかる費用(22.1%)も、継続してかかる費用(24.9%)も、それより下にある。アメリカ・ドイツ・中国では、いずれも費用が上位に来ており、「活用方法がわからない」がここまで突出しているのは日本だけという結果になっている。

つまり、「いくらかかるのか」という問いが出てくる状態は、多くの場合、まだ何に使うかが決まっていない状態でもある。値段が分からないのは情報が足りないからではなく、値段が決まる側の材料が、まだ自社の中に無いからだ。費用の問題に見えているものが、実は使い道の問題である——ここを取り違えたまま金額を集めても、比べられる形にはならない。

では、どう考えるか

順序を入れ替える。値段を聞いてから使い道を考えるのではなく、使い道を一つ決めてから値段を出す

そのときに置く問いは、大きくない。「AIで何ができるか」ではなく、「いま社内で、いちばん時間を取られている決まった作業は何か」。文章を書くのに毎回時間がかかっている、同じ数字を打ち直している、問い合わせの返事を一から書いている、記録を残せていない——このどれか一つを選ぶ。

一つに絞ると、費用の性質が変わる。全社でAIを導入する、という話には相場が無いが、「この一つの作業をどうにかする」には、上限を自分で決められる。その作業に、いま月に何時間かかっているか。それを人の時間で数えれば、払っていい額の上限が自然に出る。相場が外から来ないなら、自社の中で作る。 中小企業で実際に回るのは、この順序になる。

もう一点、金額の話で抜けやすいものがある。払う金額のほかに、社内で使う時間が要る。 どの作業を渡すかを決め、渡し方を試し、出てきたものを確かめる——この時間は請求書には出てこないが、確実にかかる。見積もりの金額だけを比べると、この部分が計算から落ちる。 安い道具を選んだのに使われないまま終わる、という結果になりやすいのは、ここが見えていないためである。

選び方:道はいくつかある

費用の決め方には、いくつかの道がある。会社の置かれ方によって、無理のない道が変わる。

A案:費用のかからない範囲で一つの作業に当て、自社の値段を自分で作る

いきなり見積もりを取るのではなく、先に使ってみて、自社にとっての値段を実測する、という道がある。AIには、費用をかけずに試せる範囲を持つものがあり、多くの場合、そこで「渡せる作業かどうか」までは分かる。

やり方は決まっている。前の章で選んだ一つの作業を、そのまま持ち込む。案内文の下書き、問い合わせへの返事の下書き、長い資料の要点の抜き出し、打ち合わせの記録の整理——普段その作業でやっていることを、そのまま言葉で書いて渡す。そして、次の三つだけを見る。

  • その作業は、実際に渡せたか(渡せない作業もある。それが分かることも結果になる)
  • どこまでを任せて、どこからを自分で直したか(この線が、次に見積もるときの中身になる)
  • 一件あたり、何分が何分になったか(この差に、月の件数を掛ければ、払っていい額の見当がつく)

この三つが手元にあると、業者に会ったときの立場が変わる。 「AIでいくらかかりますか」ではなく、「この作業を、この形で、月にこの件数だけ処理したい」と言える。相手が中身を仮に置く余地がなくなり、出てくる金額の意味が読めるようになる。

  • 向く場面:予算の見当がまったくついていない会社。何に使えるかも含めて、まだ決まっていない会社。
  • 割に合わないこと:費用をかけずに試せるのは、手元の作業を人が手で渡す形までである。 社内の仕組みとつなぐ、複数人で使う、扱う情報に取引先や個人の情報が含まれる——このあたりに入ると、別の費用と別の判断が要る。また、試した結果「渡せる作業ではなかった」で終わることもある。ただしその場合も、見積もりを取る前にそれが分かったことになる。
  • 始める前に要ること:試す作業を一つに絞ること。複数を同時に試すと、何が効いたのか分からなくなり、値段の材料にもならない。加えて、試すときに顧客の名前や個人の情報をそのまま入れる必要はない。中身を伏せた形でも、渡せるかどうかは確かめられる。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「値段を聞く前に、使い道を一つ実測する」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:使う場面を先に書いてから、複数の相手に値段を聞く

見積もりを取る前に、何を、どの形で、どれだけ処理したいのかを一枚に書いておく。同じ紙を複数の相手に渡せば、出てきた金額は同じ前提の上に並ぶ。

  • 向く場面:任せたい作業がすでにはっきりしている会社。社内の仕組みとつなぐ必要があり、自分たちだけでは組めない会社。
  • 割に合わないこと:書けるだけの中身が社内に無いと、この道は使えない。 そして、その紙の内容が変われば金額も変わるため、一度取った見積もりが後から動く。金額が動くこと自体は不自然ではないが、動く前提で受け取る必要がある。
  • 始める前に要ること:任せたい作業の、いまの手順を書き出しておくこと。書き出せないうちは、相手も見積もれない。

C案:いまその作業にかかっている時間から、払える上限を先に決める

外から相場を持ってくるのをやめ、自社の中で上限を作る道。その作業に月に何時間かかっているかを数え、そこから「これ以上なら合わない」という線を先に引く。金額の交渉ではなく、判断の基準を持つための道になる。

  • 向く場面:見積もりが出てきたが、高いのか安いのか判断できない会社。社内で予算の話を始める必要がある会社。
  • 割に合わないこと:時間で測れる作業にしか使えない。「間違いが減る」「探す時間が読めるようになる」といった効き方は、この計算に乗らない。乗らない分を切り捨てて判断すると、本来の値打ちを見誤ることがある
  • 始める前に要ること:その作業の件数と、一件あたりの時間を、実測で押さえること。感覚で出した数字を上限にすると、その上限自体が当てにならない。

三つに優劣はない。まったく見当がついていないならA案、任せたい中身が決まっているならB案、出てきた金額を判断したいならC案が入口になる。A案で実測してからB案に進むという順序が、最も金額の意味が読める形になる。

自分でできる、はじめの一歩

費用をかけずに、今日のうちにできることがある。

紙一枚に、この一週間で自分または社員が時間を取られた作業を、思いつくまま書き出す。 そのうえで、「毎回だいたい同じ手順でやっているもの」に印をつける。印がついたものが、値段を出せる候補になる。印がつかないなら、いま値段を聞いても答えは出ない——判断の材料が、まだ社内に無いということになる。

もう一つ。印をつけた作業のうち一つを選び、その作業を今週のうちに一度、AIに渡してみる。うまくいってもいかなくても、「どこまで渡せて、どこからは無理だったか」という一行が手元に残る。この一行が、見積もりを読むときの物差しになる。

この一歩でできるのは「値段を出せる形に、問いを作り替える」までだ。実際にどこまで任せ、いくらまで出すかという判断は、ここから先に残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「どの作業なら渡せるのか、自社では見当がつかない」「出てきた見積もりの金額が、何に対しての金額なのか読み取れない」「試してはみたが、これが自社にとって値打ちのある結果なのか判断できない」——この辺りで足が止まる会社は多い。金額の妥当性は、比べる相手が無いと決められない。そしてこの題材では、その比べる相手が外から手に入らない。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちにはこういう作業があって、どこから手をつけたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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