中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

払っている費用に、見合った効果が出ているか分からない

効果が「見えない」ことと、効果が「出ていない」ことは別である。導入前の状態を記録していないから比べられず、しかも中小企業のITの効果は"起きなかった損失"や"浮いた時間"という目に映らない形で現れる。だから「見えない=ムダ」と切ると、効いているものまで止めてしまう。

毎月きちんと引き落とされている。導入したときは「これで楽になる」と思った。だが半年、一年と経ってみて、ふと立ち止まる——「これ、払っただけの効果、出ているんだろうか」。売上が目に見えて増えたわけでもない。何かがすごく便利になった実感もない。かといって、止めて困るのかと言われると、それも分からない。この宙ぶらりんの状態が、いちばん判断に困る——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 導入して一年経つが、「これのおかげでこうなった」と一言で説明できない。
  • 効果を聞かれても「まあ、あると思う」としか答えられず、根拠を出せない。
  • 「使ってはいる」。だが、それが費用に見合っているかは分からない。
  • 導入する前、自社がどういう状態だったかを、正確に思い出せない。
  • 数字で成果が出るはずと期待していたが、売上の数字は特に動いていない。
  • 「効果が見えないから、いっそ止めてしまおうか」と考えたが、止めた後に何か起きるのが怖くて、そのままにしている。

どれも、効果が見えないという状態そのものが、判断を止めてしまっている。

デスクで請求書とパソコンの画面を見比べ、どちらとも言えず腕を組んで考え込んでいる経営者の様子

たいてい、こう考える

効果が見えないと気づいたとき、多くの会社はまずこの方向に動く。

「見えないということは、効いていないんだろう」。そして「効いていないなら、払うだけ無駄だ」と続く。あるいは逆に「せっかく入れたんだから」と、効果を確かめないまま払い続ける。前者は止める方向、後者は続ける方向で、正反対に見える。だが、どちらも同じ一つの土台の上に立っている——「効果が見えるかどうか」で判断している、という土台だ。

見えないものは、無いのと同じに感じられる。目に映らない支出ほど、惜しく感じる。だが、この「見える/見えない」で切ってしまうところに、落とし穴がある。

だが、本当の問題は「効果が出ていないこと」ではない

ここで、区別しておくべきことが一つある。効果が「見えない」ことと、効果が「出ていない」ことは、まったく別のことだ。この二つを同じものとして扱うと、判断を誤る。

なぜ効果が見えないのか。理由は二つある。どちらも、その支出が無駄だからではない。

一つ目。導入したとき、「何をもって効果とするか」を決めていないから、比べようがない。効果とは、本来「前と後を比べて、どれだけ変わったか」でしか測れない。ところが多くの場合、導入する前の状態——たとえば、その作業に毎月何時間かかっていたか、月に何回ミスやトラブルが起きていたか——を、誰も記録していない。比べる相手(導入前の姿)が手元にないのだ。だから今がどれだけ良くなっていても、「良くなった」と言い切れない。効果が見えないのではなく、比べるための出発点を、そもそも記録していない。これは、効いていないこととは違う。

二つ目。中小企業のITがもたらす効果の多くは、そもそも目に映りにくい形で現れる。人は「効果」と聞くと、売上が増える、といった足し算の変化を思い浮かべる。だが実際に多いのは、そちらではない。起きるはずだった損失が、起きずに済んだ。かかるはずだった時間が、浮いた。——こうした「引き算の効果」「起きなかったことの効果」だ。請求ミスが減って取引先とのトラブルが未然に消えた。手作業でやっていた集計が自動になって、残業が一時間減った。これらは、起きなかったからこそ、記憶にも数字にも残らない。効いているときほど、何も起きないので、目に映らない。これが正常な状態なのだ。

つまり、効果が見えないことには、二つの見えない理由が重なっている。比べる出発点を取っていないこと。そして、効果そのものが引き算の形で現れること。この二つを知らずに「見えない=ムダ」と即断すると、いちばん静かに効いているものから順に、切ってしまう。効いているから何も起きず、何も起きないから見えず、見えないから止められる——この順番で、良い支出ほど危うくなる。問題は「効果が出ていないこと」ではなく、「効果を見る仕掛けを、最初に用意していないこと」にある。

では、どう考えるか

考え方を変える。「効果が見えるか」を判断の入口にするのをやめる。見えないのは当たり前だと受け止めた上で、見えないものを見えるようにする——つまり、効果を後から取り出す作業をする。

軸は二つだ。

一つ目。過去にさかのぼって、無理のない範囲で「前はどうだったか」を思い出す。厳密な数字でなくてよい。「導入前は、この作業に半日かかっていた」「月に二、三回はあのトラブルが起きていた」——この程度の記憶でも、比べる出発点にはなる。効果とは、今の状態を眺めても出てこない。前と今を並べて、初めて姿を現す。

二つ目。効果を「売上が増えたか」だけで探さない。「何が起きなくなったか」「何にかかっていた手間が消えたか」を、あえて探しにいく。引き算の効果は、探しにいかないと目に入らない。「もしこれを止めたら、どの作業が手作業に戻り、どのトラブルが復活するか」——この問いを立てると、静かに効いていたものが輪郭を持ち始める。

そしてこの先、新しく何かを導入するときは、導入する前に一行だけ残しておく。「今、これに月◯時間/月◯回かかっている」。この一行が、一年後に効果を測る出発点になる。後から比べられる状態を、入口で作っておく。

選び方:道はいくつかある

効果が見えない費用への向き合い方には、いくつかの道がある。どこから入るかは、会社の事情で変わってくる。

A案:AIに、効果を棚卸し・言語化してもらう

効果が見えないのは、頭の中だけで「効いているかどうか」を考えようとするからだ。人は、目に映らない引き算の効果を、記憶だけでたぐり寄せるのが苦手である。その手間を、人以外に渡す方法がある。答えをもらう使い方ではなく、作業を肩代わりさせる使い方になる。やってもらうのは、散らばった事実を並べ直して、効果という形に翻訳する作業だ。

使い方としては、たとえばこうなる。導入する前の状態のメモ(この作業に何時間かかっていた、こういうトラブルがあった、など覚えている範囲でよい)、導入後の作業の記録や請求書、月々の状況を、AIに渡す。するとAIが、「この費用によって、何がどれだけ変わったか」を、前と後で並べて言語化してくれる。

  • 「導入前は月に二十時間かかっていた集計作業が、記録を見るかぎり月五時間ほどに減っています。差の十五時間が、この費用で浮いた時間と考えられます」
  • 「導入後、請求まわりのトラブルの記録が見当たりません。以前は月に数回あったとのことなので、"起きなかった損失"として効果に数えられます」
  • 「一方、この費用については、前後で変わった点が記録から見つかりません。効果が薄い可能性があります。一度、現場に使われているか確かめてはどうでしょう」

つまり、人間がいちばん苦手とする「見えない引き算の効果を、記憶から掘り起こして言葉にする」という部分を、AIに任せる。効果の可視化を、人の記憶や勘ではなく、事実を並べ直す仕組みに置き換える、という考え方だ。ただし、AIが並べるのはあくまで材料である。その費用を続けるか止めるかの最終判断は、業務の事情を知っている人がする。

  • 向く場面:複数の費用について「効いているのか分からない」ものが並んでいて、一つずつ人が思い出して評価するのが追いつかない会社。
  • 割に合わないこと:合わない場面もある。渡す材料が何もない(前の状態も、後の記録も残っていない)と、AIも比べようがない。最初に、思い出せる範囲の情報を一度そろえる手間はかかる(ここは人がやる)。また、AIが出すのは「こう読み取れる」という整理であって、それが本当に効果かどうかの裏づけは人が確かめる。
  • 始める前に要ること:導入前後で「何が変わったか」の手がかりになる材料を、断片でよいので集めること。完璧な数字は要らない。覚えている範囲のメモでも出発点になる。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「散らばった事実を効果の形に翻訳させる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:一つだけ選んで、止めて試す

すべての費用の効果を測るのは大変だ。ならば、いちばん怪しいと感じる一つを選び、一定期間だけ止めてみる。止めて何も困らなければ、効果は薄かったということ。止めて業務が回らなくなれば、それは静かに効いていた証拠だ。効果を頭で測る代わりに、無くしてみて反応を見る。

  • 向く場面:数が多くなく、一つずつ試す余裕がある会社。契約を残したまま一時停止できるサービスがある場合。
  • 割に合わないこと:止めた影響がすぐに出ないもの(セキュリティ対策など、事故が起きて初めて効果が分かるもの)には使えない。むしろ危険な場合がある。
  • 始める前に要ること:止めても業務や取引先に迷惑がかからないか、事前に見きわめること。安全に試せるものだけを対象にする。

C案:これから導入するものだけ、出発点を記録する

過去の分は測りにくい。ならば割り切って、これから新しく導入するものだけ、入れる前に「今の状態」を一行残しておく。一年後、確実に効果を測れる状態を作る。

  • 向く場面:過去分の可視化はいったん諦めて、今後の判断精度を上げたい会社。
  • 割に合わないこと:すでに払っている費用の判断には効かない。効果が見えるようになるのは、記録を始めてから先の話になる。
  • 始める前に要ること:「導入前に、今かかっている時間か回数を一行だけ書く」を、決める人の習慣にすること。

無理のないところが入口になる。すべての費用を一度に評価しようとすると、途中で止まりやすい。

自分でできる、はじめの一歩

一円もかけずに確かめられることがある。

効果が分からない費用を一つ選び、頭の中で一言だけ問う——「これを今日から止めたら、どの作業が元に戻り、どのトラブルが復活するか」。すぐに「あの手作業が戻ってくる」「あのミスがまた起きる」と具体的に浮かぶものは、見えていなかっただけで、ちゃんと効いている。数十秒考えても何も浮かばないものは、効果が薄い候補だ。

大事なのは、「良くなったこと」ではなく「無くなって困ること」を探す向きで考えること。効果は、足し算では見えにくく、引き算にすると姿を現す。表を作る必要も、数字を集める必要もない。この問いを、一つずつ当てていくだけでいい。

この一歩でできるのは、「明らかに効いているもの」と「効いていなさそうなもの」を、ざっくり仕分けるところまでだ。そこから先、白とも黒ともつかない費用が残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「止めていいのか確信が持てない」「前の状態を思い出せず、比べようがない」「一つ止めて試すにしても、影響がいつ出るのか読めない」——同じところで詰まる会社は少なくない。効果の見えにくいものほど、続けるにも止めるにも決め手が無い。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「この費用が効いているのか分からない、どう確かめたらいいか」——その見極めを一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

ちょっと聞いてみる

この辞典について

大阪の中小企業のための、IT・AI活用の困りごと解消の答えを引き出す辞典です。運営は OSAKA AI-Center(OAIC)。特定の製品やサービスを売ることはありません。 この辞典についてくわしく →