中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

データは貯めているのに、結局"勘"で決めている

目的は勘を捨ててデータに置き換えることではない。貯めた記録をAIに読ませ、勘の"なぜ"を言葉と数字に翻訳して裏を取り、人に説明・共有・継承できる形にすることにある。

レジの記録も、受注の履歴も、在庫の増減も、何年分もパソコンやクラウドの中にある。それでも、来月どれだけ仕入れるか、どの曜日に人を厚くするかを決める段になると、最後は「たぶんこうだろう」で決めている。データはある。だが判断の根拠になっていない——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 売上や来客の記録は毎日つけているが、月末に眺めるだけで、そこから何かを決めたことはない。
  • 「雨の翌日は動きが鈍い」「あの店が休みの日はうちが混む」——長年やってきて分かっている感覚はあるが、数字で見たことはない。
  • 仕入れの量も、シフトの厚さも、結局はベテランや経営者の「読み」で決まっている。その人が休むと、とたんに判断が鈍る。
  • 「なぜそう仕入れるのか」を若手に聞かれても、「長年の勘だ」としか説明できない。
  • 会計ソフトやレジには集計機能がついているらしいが、開いても数字が並ぶだけで、だから何なのかが分からない。
  • 取引先の銀行やコンサルタントに「データを活用しましょう」と言われるが、何をどうすればいいのか見当がつかない。

記録は貯まっている。感覚も当たっている。それなのに、その二つがつながっていない。

カウンターの内側。手元のノートには手書きの数字がびっしり並び、その横でパソコンの画面にも売上グラフが表示されている。だが店主は画面を見ず、経験で判断している様子

たいてい、こう考える

この困りごとに向き合おうとしたとき、たいていの会社が取る手は決まっている。

「勘に頼るのはよくない。これからはデータで判断しよう」。表計算ソフトを開いて、売上を月別・曜日別に並べ替えてみる。グラフにしてみる。あるいは「分析ができる人を雇おう」「そういうツールを入れよう」と考える。どれも、向きとしては正しい。データを見て決めるほうが、行き当たりばったりよりいい。それはその通りだ。

だが、表を並べ替えても、そこから何を読み取ればいいのかが分からない。グラフはきれいにできるが、「で、どうする」の手前で止まる。分析の専門家を雇う余裕もない。結局、数字を眺めることに疲れて、また「勘」に戻る。データ活用は、多くの会社で「やったほうがいいと分かっているのに、続かないこと」の一つになっている。

だが、本当の問題は「勘で決めていること」ではない

ここで、少し立ち止まる必要がある。世の中のたいていの説明は、「勘から脱却して、データで判断せよ」と言う。勘を、遅れたもの・当てにならないものとして扱う。だが、その前提そのものが正しいとは限らない。

長年その商売をやってきた経営者の勘は、何百回、何千回と現場を見てきた末に、頭の中に積み上がった経験の結晶である。「雨の翌日は鈍い」「この時期はあれが動く」——それは思いつきではない。言ってみれば、勘とは、まだ言葉になっていない経験知である。当てにならないから言葉になっていないのではなく、いちいち言葉にする必要がなかったから、言葉になっていない。

すると、本当の問題が見えてくる。問題は「勘で決めていること」ではない。勘が、その人の頭の中にしかなく、外に出せないことにある。言葉になっていないから、若手に説明できない。数字で裏づけられていないから、確信を持って賭けられない。その人が辞めたら、丸ごと消える。優れた判断力が、承継も共有もできない形で、一人の頭の中に閉じ込められている——ここが核心だ。

そして、貯めているデータのほうにも同じことが起きている。記録は、貯めた瞬間はまだ「情報」ですらない。ただの置物だ。読み解かれて、意味を持たされて、初めて判断の材料になる。多くの会社が抱えているのは、「言葉にならない勘」と「読み解かれないデータ」が、それぞれ別々に眠っている状態である。片方は頭の中に、片方はパソコンの中に。この二つは、本来つながるはずのものだった。

だとすれば、やるべきことは「勘を捨ててデータに置き換える」ことではない。逆だ。勘を捨てず、勘が感じ取っている「なぜ」を、貯めたデータで裏づけて、言葉と数字に翻訳する。そうすれば、頭の中にしかなかった判断力が、人に説明でき、共有でき、次の世代に渡せる形になる。

では、どう考えるか

考え方の順番を変える。「データから何か発見しよう」と、白紙からデータに向かうのではない。すでに頭の中にある「勘」を出発点にする。

まず、経営者やベテランが「なんとなくそう感じている」ことを、一つ、言葉にしてみる。「雨の翌日は客足が鈍い気がする」でいい。この時点では、当たっているかどうかは分からなくていい。大事なのは、漠然とした感覚を、確かめられる形の問いに変えることだ。

次に、その問いを、貯めてあるデータにぶつける。「本当に、雨の翌日は売上が下がっているのか」。ここでデータは、初めて置物から材料に変わる。答えは、三つのうちのどれかになる。当たっている(なら、その勘は数字の裏づけを得て、人に説明できる根拠になる)。外れている(なら、思い込みを一つ手放せる。これも大きな収穫だ)。あるいは「雨の翌日ではなく、雨が二日続いた後だった」というように、勘よりも正確な形が見えてくる。

この順番だと、何が起きるか。勘を否定するのでも、勘に頼りきるのでもなく、勘を「検証にかけられる仮説」として扱えるようになる。当たった勘は、堂々と使える根拠になる。外れた勘は、静かに引退させられる。そして何より、頭の中にあった判断が「なぜそうなのか」まで含めて、言葉で残る。これが、承継も共有もできなかった経験知を、渡せる形にするということだ。

問題は、この「勘をデータで裏づける」作業を、誰がやるかである。専門の分析担当を置ける中小企業は、そう多くない。ここで、選択肢が分かれる。

選び方:道はいくつかある

貯めた記録と勘をつなぐやり方には、いくつかの道がある。手が届く道は、会社ごとに違う。

A案:貯めた記録をAIに読ませ、勘の裏を取らせる

いちばん現実的なのが、この道だ。ただしこれは、世間でよく知られた「AIに質問すると文章で答えてくれる」使い方とは違う。やってもらうのは、手元にある記録を読み解いて、勘が本当かどうかを言葉と数字で返してもらうことだ。

手順にすると、こうなる。売上・来客・在庫といった、すでに貯めている記録(表計算のファイルや、レジ・会計ソフトから書き出したもの)を、AIに渡す。そのうえで、頭の中にある勘を、普段のしゃべり言葉のまま問いかける。

  • 「雨の翌日って、やっぱり売上が落ちてる? 過去一年で見てみて」
  • 「この商品がよく売れる曜日と、あまり売れない曜日を教えて。何か傾向はある?」
  • 「去年の同じ時期と比べて、今、何がいちばん変わってる?」

すると、AIは記録を読み解いて、数字と、その数字が意味することを、普通の言葉で返してくる。「雨の翌日は、平均して一割ほど売上が下がっています」——この数字は仕組みを示すための仮のもので、実際の数字は会社ごとの記録によって変わる。専門用語やグラフの読み方を覚える必要はない。難しい操作もいらない。頭の中の勘を話し言葉でぶつけ、貯めた記録から裏づけを引き出す——ここが、この使い方の勘どころだ。勘を否定するためではなく、勘の裏を取るために使う。

  • 向く場面:長年の勘はあるが数字で確かめたことがない会社。記録は貯まっているのに読み解けていない会社。分析の専任を置く余裕がない会社。
  • 割に合わないこと:渡す記録がそもそも不正確だったり、量が少なすぎたりすると、出てくる答えも当てにならない。AIは「過去にこうだった」という傾向は読めるが、なぜそうなったのかの背景(近所で工事があった、など記録に残っていない事情)までは分からない。そして、最終的に「では今回どう賭けるか」を決めるのは人である。AIは裏を取る道具であって、決断の代わりではない。
  • 始める前に要ること:勘を「確かめられる問い」の形にすること(漠然と「なんか最近おかしい」ではなく「先月と今月で何が変わったか」のように)。渡せる記録を、書き出せる状態にしておくこと。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「貯めた記録を読ませ、勘の裏を取らせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:まず一つの勘だけを、手作業で確かめる

いきなり全部をやろうとせず、いちばん賭け金の大きい勘を一つだけ選び、表計算ソフトで手作業で確かめる。

  • 向く場面:確かめたい勘が一つか二つに絞れていて、記録の量もそれほど多くない会社。
  • 割に合わないこと:手間がかかり、確かめられる数が限られる。並べ替えや集計に慣れが要り、複雑な傾向は追いきれない。
  • 始める前に要ること:確かめたい勘を一つに絞ること。その勘に関係する記録がどこにあるかを把握しておくこと。

C案:数字に強い外部の人と一緒に読み解く

自社だけでは手が回らない場合、記録の読み解きを外部の詳しい人と一緒にやる。

  • 向く場面:記録は大量にあるが社内に読み解ける人がいない会社。一度きちんと現状を把握したい会社。
  • 割に合わないこと:費用と、そのつど頼む手間がかかる。頼りきると、社内に読み解く力が育たないまま外に依存し続けることになる。
  • 始める前に要ること:何を知りたいのか(どの勘を確かめたいのか)を、頼む前に自社側で言葉にしておくこと。丸投げでは、相手も何を返せばいいか分からない。

どれかを選ばせるために並べたのではない。無理のないところが入口になる。一つの勘を確かめきることが、次の一歩につながる。

自分でできる、はじめの一歩

今日、手元だけでできることがある。

紙でもメモ帳でもいい。頭の中にある「なんとなくそう思っている商売の勘」を、一つだけ、文にして書き出す。「◯◯の翌日は暇」「この客層は△△を一緒に買う」——なんでもいい。ただし、あとで確かめられる形にする。「うちの店はいい店だ」では確かめようがないが、「土曜の午後がいちばん混む」なら、記録と突き合わせれば白黒がつく。

書き出せたら、それが「まだ裏を取っていない仮説」だと意識する。それだけで、次にデータに向かうときの目的がはっきりする。漠然と数字を眺めるのと、「この勘が本当かを確かめる」という狙いを持って眺めるのとでは、見えてくるものがまるで違う。

この一歩でできるのは「確かめたい勘を、言葉にして一つ持つ」ところまでだ。そこから先、その勘を実際に記録と突き合わせて裏を取る段になると、記録をどう渡すか、どう読ませるかで迷いが出てくる。

それでも、自社の事情が残るときは

「勘を言葉にはできたが、記録をどう読ませればいいのか分からない」「そもそも、うちが貯めている記録でちゃんと確かめられるのか自信がない」「AIに読ませるといっても、何を、どんな形で渡せばいいのか見当がつかない」——ここは、たいてい最後まで残る。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちにはこういう記録があって、こういう勘を確かめてみたい」——その入り口を一緒に整理するところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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