「せっかく入れたのに、開いてすらいない」。そういうシステムが一つや二つ、社内にある会社は多い。使われない理由を探すとき、目はたいてい入れた後に向く——現場が動かない、教える人がいなかった、うちの業務には合わなかった。だが、めったに振り返られない場所がもう一つある。そもそも、それを何のために買ったのか。この辞典が扱うのは、その「買った理由」のほうである。
こんな場面に、心当たりはないか
- 補助金の対象になると聞いて、締め切りに間に合わせる形で導入した。何を解決するかは、後から考えるつもりだった。
- 同業の会社が「入れた」と言うのを聞き、うちも遅れてはまずいと契約した。
- 出入りの業者に勧められ、話の流れで導入を決めた。断る理由も、特に無かった。
- はっきりした用途はないが、「これからの時代、あったほうがいい」と念のため入れた。
- 展示会やセミナーで良さそうに見えて、その場の熱で決めた。持ち帰って熱が冷めると、使う場面が思い浮かばなかった。
これらに共通するのは、「自社のどの困りごとを片づけるために買うのか」が、決める時点でぼんやりしていたことである。

たいてい、こう考える
使われないシステムを前に、多くの会社はまずこの方向に動く。「現場が新しいやり方を嫌がっている」「使い方を教える人がいなかった」「うちの業務には合わなかった」。だから、もう一度使い方を説明する。別の製品に乗り換える。あるいは、使っていない人に声をかける。
どれも、入れた後をどう立て直すか、という話である。使われない仕組みを、現場に根づかせようとする方向だ。
だが、本当の問題は「使わない現場」でも「合わない道具」でもない
ところが、使われないシステムの中には、後からいくら手を尽くしても動き出さないものがある。説明を重ねても、乗り換えても、しばらくするとまた放置される。理由は現場でも道具でもなく、もっと手前にある。買った動機そのものだ。
さきほど並べた場面には、共通点がある。補助金が出る。同業が入れた。営業に勧められた。念のため。これらはすべて、自社の外側から来た理由である。そこには「うちのこの作業が、こう困っている」という自社の中身が入っていない。使う理由が最初から社内に無かったものは、使われないのが当然だ。道具の出来でも、現場の熱意でもない。出発点に、使う理由が入っていなかった。
なぜ、外側の理由で買ってしまうのか。人は、多くの人が選んでいるものを「正しい」と感じ、周りが動いていると「乗り遅れるまい」と感じる。同業が入れたと聞けば、それが確かな判断に見える。補助金が出ると聞けば、今買うのが得に見える。社会心理学でいう社会的証明、つまり「みんなが選んでいるなら正しいはずだ」という判断のクセそのものである。これは意思の弱さではない。誰の頭にも備わった、ごく自然な反応だ。
そして、中小企業でこれを決めるのは、ほとんどの場合、経営者である。しかもそのとき経営者は、真剣に考えている。「補助金が出るうちに」「同業に後れを取らないうちに」——その時点で見れば、どれも会社の先を思った、理にかなった判断だ。誰も無駄遣いをしようとしたわけではない。むしろ逆で、そのつど良かれと判断した積み重ねが、皮肉にも「使われないシステム」という結果を生む。
だとすれば、使っていないシステムを見分ける問いは、「なぜ使わないのか」ではない。「そもそも、なぜ買ったのか」である。買った理由を思い出して、そこに"自社の困りごと"の顔が出てこないなら、それは立て直すか乗り換えるか以前に、最初から使う場所が無かった。ITの売り手からは「使われないのは定着のさせ方が足りないからだ」という説明が出てくる。だが定着の前に、そもそも自社の中に使う理由があったのか——そこを見ないまま次の手を打っても、同じことが繰り返される。
では、どう考えるか
入れた後を立て直す前に、一度、入口へ戻る。
問うべきは一つだ。「この道具で、本当にやりたかった作業は何だったのか」。見積書を作る時間を減らしたかったのか。問い合わせへの返信を楽にしたかったのか。在庫の数え間違いを無くしたかったのか。これが一文で言葉にできるなら、立て直す価値のあるシステムだ。目的がはっきりしているのだから、そこに合わせて使い方を絞るという道がある。
逆に、いくら考えても「補助金が出たから」「同業が入れたから」しか出てこないなら、話は変わる。無理に使い道を後付けするより、止めるか、本当にやりたかった一作業だけを別の形に移すほうが、筋が通る。
大事なのは、「せっかく買ったのだから使わなければ」という気持ちと、いったん距離を置くことである。ここまで払ったお金は、使っても使わなくても戻らない。戻らない支出を惜しんで、合わないものを使い続けようとすると、そこにまた時間と手間が積み上がっていく。
選び方:道はいくつかある
使っていないシステムへの向き合い方には、いくつかの道がある。三つのうちどれが現実的かは、会社によって入れ替わる。
A案:立て直す前に、本当にやりたかった一作業だけをAIに寄せてみる
システム全体を立て直したり買い替えたりする前に、試せることがある。「この道具で本当にやりたかった、たった一つの作業」を思い出し、それだけを対話型のAIに肩代わりできないか試す、という道だ。聞いて教わるのではなく、代わりにやらせる、という向きだ。日々の一作業そのものを、AIに下ごしらえさせる。
たとえば、こういうことができる。
- 問い合わせメールの返信を毎回ゼロから書いていたなら、要点を伝えて下書きを作らせ、人が直して送る。
- 見積書や案内文のたたき台を、条件を渡して作らせる。
- 長い資料や議事録から、必要なところだけ要約させる。
大がかりなシステムを一式そろえなくても、この程度の「一作業」なら、対話型のAIが直接、しかも安く片づけてしまうことがある。使われないシステムを無理に立て直すより、やりたかった一点だけをAIに寄せてしまう、という考え方である。
- 向く場面:そのシステムで本当にやりたかったことが、文章を作る・要約する・下書きするといった「区切れる一作業」に絞れる会社。
- 割に合わないこと:これで全部が片づくわけではない。自社固有のデータと深くつながった基幹業務そのものを、AI単体で丸ごと動かすことはできない。AIが作るのはあくまで下書きであり、正しいかどうかの最終判断は人がする。
- 始める前に要ること:「本当にやりたかった一作業」を一つに絞って言葉にすること。それが言葉にできないなら、そもそも何のために買ったのかが、まだ曖昧なままだということでもある。
※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「一作業をAIに肩代わりさせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。
B案:買った目的に立ち返り、「続けるか・やめるか」を決め直す
買った動機の中に、わずかでも「自社のこの困りごとを片づけたかった」という中身があったなら、そこに立ち返って、続けるか・やめるかを決め直す。目的が見つかれば使う範囲を絞れるし、見つからなければ止める判断がつく。
- 向く場面:外側の理由だけでなく、自社の困りごとも多少は混じって買った、という心当たりがある会社。
- 割に合わないこと:思い出しても目的が外側の理由しか出てこない場合、立て直す土台がない。無理に続けても、同じことが繰り返される。
- 始める前に要ること:契約や導入を決めたときのことを思い出し、「何を楽にしたかったのか」を書き出すこと。
C案:次に何かを買うとき、入口に問いを一つ置く
過去のものには深入りせず、これから買うものだけ、同じ買い方を繰り返さない形にする。何かを導入すると決める前に、たった一つだけ確かめる——「これは、自社のどの困りごとを片づけるために買うのか」。この問いに一文で答えられないうちは、契約しない。
- 向く場面:補助金や同業の動きに背中を押されて、これからも導入を決める場面が出てきそうな会社。
- 割に合わないこと:すでに眠っているシステムは、これでは減らない。過去分はA案・B案で別に片づける必要がある。
- 始める前に要ること:導入を決める人(多くは経営者)が、この一問を決裁の前に必ず通す、と自分で決めておくこと。
過去に眠っているものはA案・B案で、これからの買い物はC案で、という組み合わせもある。無理のないところが入口になる。
自分でできる、はじめの一歩
一円もかけずに確かめられることがある。
いま使っていないシステムを一つ思い浮かべ、「なぜこれを買ったのか」を思い出して、一言で書いてみる。そのとき、"自社のどの困りごとのため"という言葉が出てくるかどうかを見る。「見積の手間を減らしたかった」のように困りごとが顔を出すなら、それは立て直す価値がある。数秒考えても「補助金」「同業」「営業に勧められて」「念のため」しか出てこないなら、それは、買った時点で使う場所が決まっていなかった、ということだ。
もう一つ。これから何かを導入しようとするときだけ、決める前に「これは自社のどの困りごとを片づけるためか」を一行メモに残す。これも無料で、数秒で終わる。
この一歩でできるのは、「立て直す価値のあるもの」と「そもそも使う理由が無かったもの」を仕分けるところまでだ。そこから先、止めていいのか確信が持てないものが残る。
それでも、自社の事情が残るときは
「目的が半分は自社にあった気もするが、止めていいのか確信が持てない」「このシステムが裏で他の業務とどうつながっているか、自社では追えない」「やりたかった一作業をAIに寄せるといっても、何から手をつければいいのか分からない」——同じところで詰まる会社は少なくない。導入の経緯も、業務のつながりも、会社ごとに違う。同じ答えがそのまま当てはまることは、まずない。
そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこれをこういう理由で入れて、今こうなっている」——その一つを一緒にほどいて、立て直すのか・寄せるのか・止めるのかを整理するところまでが、この辞典の役割である。
ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。
うちの場合はどうなのか、という部分は残る。
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