中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

機能が多すぎて、使っているのはごく一部だけ

多機能な道具を、ごく一部の機能しか使っていない——多くの場合、それ自体は問題ではない。道具は自社の一つ二つの業務が回れば、もう元は取れている。厄介なのは「使いこなせていない」という罪悪感のほうで、要らない機能まで使おうとして、かえって現場を混乱させる。

多機能なツールを入れた。カタログには、あれもできる、これもできると並んでいた。ところが実際に毎日触っているのは、そのうちのほんの一つか二つの機能だけ。残りの大半は、一度も開いたことがないメニューのまま眠っている。「せっかく入れたのに、全然使いこなせていない」——この辞典が扱うのは、その引っかかりである。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 画面の上のほうにボタンやメニューがずらりと並んでいるが、押すのはいつも同じ二つか三つだけ。ほかは何をするものかも分からない。
  • 導入のとき「これ一つで全部できます」と言われた。だが結局、使っているのは前からやっていた一つの作業をこの道具に置き換えただけだ。
  • 契約している上位プランには高度な機能がいくつも付いている。一度は「これも使ってみよう」と開いてみたが、設定が複雑で、そのまま閉じた。
  • 「機能をもっと活用しましょう」というベンダーからの案内メールが、開かれないまま溜まっている。
  • 会議で「あの機能、使えてる?」と聞かれ、言葉に詰まる。使えていないことに、どこか後ろめたさがある。
  • たまに思い立って眠っている機能を触ってみるが、現場からは「前のやり方でいいのに、なんで急に変えるんですか」と戸惑いの声が返ってくる。

どれも、道具が壊れているわけでも、選び方を間違えたわけでもない。ただ「全部を使えていない」という感覚だけが、静かに残り続けている。

机の上のノートPC。画面には機能ボタンがずらりと並んでいるが、そのうちの二つだけに使い込まれた跡があり、残りは手つかずのまま並んでいる様子

たいてい、こう考える

この引っかかりを感じたとき、最初に出てくる手は、たいてい同じだ。

「もっと使いこなさなければ」。マニュアルを引っ張り出して読み込む。ベンダーに頼んで使い方の講習をもう一度開いてもらう。眠っている機能を一つずつ触って、業務に組み込めないか試す。「これだけの機能に月額を払っているのだから、使わないと元が取れない」——そう考えて、活用の努力を始める。

その方向は、世の中の案内とも合っている。ベンダーは「もっと活用しましょう」と言い、IT系の記事も「使いこなすコツ」を並べる。どちらも「せっかくの多機能なのだから、使わないともったいない」という向きだ。その中に置かれると、使いこなせていない側に非があるように見えてくる。

だが、本当の問題は「機能を使えていないこと」ではない

ここで一つ、前提を置き直す。「一部しか使っていない」ことは、そもそも問題ではないことが多い。

道具というものは、自社の抱えていた一つか二つの困りごとが回るようになれば、それだけでもう役目を果たしている。月に数千円の道具で、これまで手作業でやっていた一つの業務が楽になったなら、それだけでも十分に見合っていることが多い。残りの機能を使っていないことは、損でもなければ失敗でもない。多機能なツールで一部しか使わないのは、道具として正しい使い方の一つであって、直すべき欠陥ではない

では、何が本当の問題なのか。それは、「使いこなせていない」という罪悪感のほうである。この後ろめたさが、要らない機能まで無理に使おうとする動きを生み、かえって現場を混乱させる。ここに、この困りごとのいちばん厄介な核心がある。

なぜ、使ってもいない機能に罪悪感を覚えるのか。鍵は、「ここまで払ったのだから、元を取らねば」という心理にある。これは、行動経済学でいうサンクコスト——すでに支払ってしまって戻ってこない費用を惜しむあまり、かえって不合理な選択に引きずられる、という人のクセそのものだ。払った金額に見合うだけ「全部」使わなければ損をした気がする。だから、本当は要らない機能まで、無理に業務へねじ込もうとする。

ところが、ここで皮肉なことが起きる。使う必要のなかった機能を持ち込んだ瞬間、現場は止まる。画面の項目が増え、手順が一つ増え、「これは何のためにやるんだ」という迷いが生まれる。今まで一つの機能だけで気持ちよく回っていた業務が、活用しようとしたせいで、かえって重くなる。罪悪感を晴らすための「活用」が、うまく回っていた現場を壊す。これが、多機能ツールをめぐって静かに起きていることの正体だ。

問題は「機能を使い切れていないこと」ではない。「使い切らねばならない」と思い込んでいること、そのものにある。

では、どう考えるか

考え方を、一つ入れ替える。「使っていない機能をどう活用するか」ではなく、「自社にとって、どの機能は使わなくていいか」を決める。

これは、少ない資源で戦う中小企業ほど効く考え方だ。人も時間も限られている以上、「何をやるか」と同じくらい「何をやらないか」を決めることが、現場を守る。多機能な道具を前にしたとき、全部を使おうとするのは、限られた手を広く薄くばらまくのと同じで、どれも中途半端になる。むしろ、自社の勝ち筋になっている一つか二つの機能に絞り、そこだけを深く使うほうが、現場は強く回る。

軸は二つだ。

一つ目。「使わない」を、後ろめたさからではなく、判断として選ぶ。眠っている機能に対して、「いつか使うかも」ではなく「今の自社の業務に要るか、要らないか」を一度はっきりさせる。要らないと決めた機能は、罪悪感の対象から外す。使っていないのではなく、使わないと決めた——この違いが、現場の迷いを消す。

二つ目。現場の画面から、使わない機能を視界の外に出す。道具によっては、使わないメニューやボタンを隠したり、権限で見えなくしたりできる。要らない機能が画面に並んでいるかぎり、人は「これも使ったほうがいいのでは」と気を取られ続ける。「できること」を増やすのではなく、「考えなくていいこと」を増やす。見えなければ、迷いも生まれない。

全部を使いこなそうとするから、苦しくなる。使う機能を決め、あとは無いものとして扱う。それだけで、道具は本来の働きを取り戻す。

選び方:道はいくつかある

眠っている機能への向き合い方には、いくつかの道がある。会社の状況によって、合う道は違う。

A案:要る機能と要らない機能を、AIに仕分けてもらう

「どれを使い、どれを使わないか」を自分だけで決めようとすると、機能の名前を見ても業務にどう関わるのか分からず、結局「一応どれも残しておこう」となりがちだ。そこを、AIに手伝ってもらう、という道がある。答えをもらう使い方ではなく、作業を肩代わりさせる使い方になる。やってもらうのは、自社の業務に照らした仕分けだ。

手順にすると、こうなる。まず、自社がこの道具で普段やっている業務を、そのまま言葉にしてAIに伝える。「毎日やっているのはこの作業だ」「この道具では主にこれをしたい」——難しい言い方はいらない。あわせて、その道具にどんな機能があるか(メニューの一覧や、マニュアルの目次など)を渡す。するとAIが、両方を突き合わせて、こう返してくれる。

  • 「あなたの業務なら、この機能とこの機能だけ使えば回ります。残りは今のところ要らないでしょう」
  • 「この機能は使っていないとのことですが、あなたの業務内容なら、たしかに当面は不要そうです」
  • 「持て余しているこの集計の作業なら、道具の高度な機能を覚えなくても、こういう形で軽く済ませられます」

つまり、「機能の名前」と「自社の業務」のあいだの、いちばん埋めにくい橋渡しを、AIに任せる。持て余している一部の作業だけなら、その部分をAIに軽く肩代わりさせて、本体の道具は使い慣れた一つか二つの機能に絞る、という組み方もできる。「全部使わねば」という思い込みを、業務に照らした「要る・要らない」の判断に置き換える、という考え方だ

  • 向く場面:機能がたくさんあって、どれが自社に要るのか自分では見当がつかない。名前だけでは業務との関係が分からない会社。
  • 割に合わないこと:万能ではない。自社の業務と、道具の機能一覧を、最初に一度言葉にする手間はかかる(ここは人がやる)。また、AIが「要らない」と示した機能が、裏で別の業務や設定とつながっていないかまでは、業務を知る人が確かめる必要がある。最終判断は人がする。
  • 始める前に要ること:自社がその道具で何をしているかを一言で言えるようにしておくこと。道具の機能一覧やマニュアルの目次が手元にあると、仕分けの精度が上がる。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「業務に照らした仕分けをAIに手伝ってもらう」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:使わない機能を、画面から隠す

要る機能だけを残し、使わないメニューやボタンは表示から消す。こうした設定が用意されている道具もある。

  • 向く場面:機能そのものは仕分けできているが、画面がごちゃごちゃして現場が迷っている会社。
  • 割に合わないこと:そもそも隠せない道具や、隠す設定の場所が分かりにくい道具もある。隠しすぎて、まれに使う機能まで見えなくすると、逆に手が止まる。
  • 始める前に要ること:どの機能を日常的に使い、どれをまれに使うかを、現場の担当者に一度聞き取ること。使う人の手元を基準にする。

C案:プランやグレードを、実際に使う分まで落とす

高度な機能のために上位プランや別料金を払っているなら、実際に使う機能で足りる下位のプランに落とせないか見直す。

  • 向く場面:使っていない機能のために、上位プランの料金を払い続けている会社。
  • 割に合わないこと:プランを落とすと、まれに使っていた機能やデータの一部が使えなくなることがある。下げる前に、何が外れるかの確認が要る。
  • 始める前に要ること:今のプランで自社が実際に使っている機能を洗い出し、それが下位プランに含まれているかを確かめること。

手が届くところから順に、というのが現実的な進み方だ。

自分でできる、はじめの一歩

お金をかけずに、今日できることがある。

その道具の画面を開いて、並んでいる機能を一つずつ見ながら、頭の中で一言つぶやく——「これ、使わなくても今の仕事は回っているか?」。回っているなら、その機能は「使わないと決めていい」ものだ。数秒考えて「これは無いと困る」と思うものだけが、自社にとって本当に要る機能だ。マニュアルを読み込む必要も、全機能を触ってみる必要もない。並んだ機能に、この一言を当てていくだけでいい。

そのうえで、日常的に使う一つか二つの機能に印をつける。印のついた機能だけが、自社にとってのその道具だ。それ以外は、当面「無いもの」として扱う——それで今の仕事は回っている。

この一歩でできるのは「使う機能と使わない機能を仕分ける」「使わないことへの罪悪感を手放す」までだ。

それでも、自社の事情が残るときは

「使っていないこの機能、本当に止めていいのか確信が持てない」「隠したりプランを下げたりすると、業務のどこかに響かないか自社では追えない」「『もっと活用しましょう』という案内が来るたび、自社に要る話なのかどうか判断がつかない」——そういう事情が残ることはある。機能どうしが裏でつながっていることもある。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこういう道具を入れていて、使っているのはこの機能だけなのだが、残りをどう扱ったものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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