中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

あやしいメールが増えたが、見分け方に自信がない

あやしいメールを見分けられるようになることを目標にすると、いつか必ず来る「見分けられない一通」に無防備になる。問うべきは、どう見分けるかではなく、見分けられずに押した後も被害が広がらない作りになっているか——そこにある。

「このメール、本物だろうか」。差出人の名前を見て、URLにカーソルを合わせ、日本語が不自然でないか目を凝らす。それでも確信が持てず、押していいのか分からないまま手が止まる——この辞典が扱うのは、その場面である。そして本当に厄介なのは、この「見分けようとする努力」そのものが、いつか裏目に出るという点にある。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 取引先や運送会社、カード会社を名乗るメールが届き、本物と見分けがつかず、開いていいのか判断できなかった。
  • 「アカウントが停止されました」「請求内容をご確認ください」という件名に、一瞬ドキッとして、リンクを押しかけた。
  • 社長や上司の名前で「至急、振込先が変わった」というメールが来て、いつもの依頼との区別がつかなかった。
  • 見慣れたロゴ、自然な日本語、正しそうな会社名。「昔のような、いかにも怪しい変な文章」ではなくなっている。
  • 社員から「これ、開いても大丈夫ですか」と聞かれても、自分にも確信が持てず、はっきり答えられなかった。
  • うっかりリンクを押してしまい、あとから「今のは大丈夫だっただろうか」と気になったが、言い出しそびれた。

一通ずつは「気をつければ分かる」ように見える。だからこそ、見分けられるという前提そのものに、誰も疑いを持たない。

パソコンの画面に届いた一通のメール。差出人もロゴも本物らしく、本物か偽物かの区別がつかず、マウスのカーソルがリンクの手前で止まっている様子

たいてい、こう考える

あやしいメールが増えたと感じたとき、多くの会社はまずこの方向に動く。

「見分け方を身につけよう」。差出人のアドレスをよく確認する、URLにカーソルを合わせて飛び先を確かめる、日本語の不自然さに注意する、心当たりのない添付は開かない——こうしたチェック項目を配り、注意喚起をする。研修を受け、社員のリテラシーを上げようとする。どれも正しい。そこに無理はない。

だが、この「見分けられるようになる」という目標の立て方そのものに、落とし穴がある。注意喚起は配った直後こそ効くが、日々大量に届くメールを一通ずつ気を張って見分け続けるのは続かない。そして続かないこと以上に深い問題が、その先にある。

だが、本当の問題は「見分けられないこと」ではない

本当の問題は、見分ける力が足りないことではない。「見分けられるようになる」ことを目標に置いていること自体が、根本的な誤りである

理由は単純だ。今のあやしいメールは、もう人の目で見分けきれる水準を超え始めている。生成AIの普及で、不自然さのない自然な日本語のメールを、安価に大量に作れるようになった。ロゴも文面も本物そっくりで、「変な日本語」「いかにも怪しい体裁」を手がかりにする従来のやり方は通用しなくなりつつある。さらに、本物そっくりの偽サイトに入力した情報を、その場で正規サイトに中継してログインを乗っ取る手口まで登場している。つまり、専門家でも一目では見分けきれない一通が、現実に出てきている。

ここに、人間の判断のクセが重なる。見分け方を学んで「自分は見分けられる」という自信がつくほど、人は確認を省くようになる。「これは大丈夫だ」と即断する回数が増える。ところが巧妙化した攻撃は、まさにその「大丈夫だと思わせる」ことを狙って作られている。自信をつけるほど、いつか必ず来る「見分けられない一通」に対して、かえって無防備になる。これが、見分けを目標にすることの本当の危うさだ。

そして見落とされがちなのは、被害が広がる決定的な瞬間は「押した/入力した瞬間」ではなく、「押したことを誰にも言えずに黙っている時間」にあるということだ。人は、うっかり踏んだことを「自分のミス」と受け止め、恥ずかしさや叱責への恐れから黙る。その沈黙の間に、乗っ取られたIDで別の詐欺メールが送られ、被害が社外の取引先へと連鎖していく。問題は「一人が見分けを誤ったこと」ではなく、「誤りが誤りとして早く扱われない作りになっていること」にある。

では、どう考えるか

問いを変える。「どうすれば見分けられるか」を問い続けるかぎり、答えは出ない。人の目は、いつか必ず巧妙な一通に負けるからだ。

だから、問い方をこう置き換える——問うべきは「どう見分けるか」ではなく、「見分けられずに押した・入力した後でも、被害が広がらない作りになっているか」である

軸は二つだ。

一つ目。見分けを、人の勘から手放す。一通ずつ気を張って人が判断するのをやめ、その判定作業を、疲れも慢心もしない側に肩代わりさせる。後述のとおり、あやしいメールをそのままAIに渡して「これは何を狙っているか・押すとどうなるか」を説明させる、という方法がある。人が「なんとなく大丈夫そう」で流していた部分を、その都度きちんと分解してもらう。

二つ目。踏んだ後を、恐怖ではなく仕組みで受け止める。誤って押すことは前提にする。そのうえで、被害が広がらないように、入り口を一段だけ多重にしておく(パスワードだけでなく、もう一つの確認を挟む)。そして何より、「これ怪しい?」「踏んだかも」と、叱られる心配なくすぐ言える空気を作っておく。見分けを人任せにするのをやめ、防ぎのほうを仕組みに置く——ここが、この困りごとの向き合い方の中心になる。

選び方:道はいくつかある

あやしいメールへの向き合い方には、いくつかの道がある。どこから入るかは、会社の事情で変わってくる。どれか一つだけを選ぶというより、上から順に重ねていくと考えるのが現実的だ。

A案:見分けを、AIに肩代わりさせる

いちばん続かないのは「人が一通ずつ、気を張って見分ける」ことだった。そこを、人の勘ではなくAIに肩代わりさせる、という道がある。ここでのAIは、答える相手ではなく、手を動かす相手になる。やってもらうのは、あやしいメールの「読み解き」だ。

現場での動きは、こういう形になる。判断に迷ったメールの本文を、そのままAIに貼り付けて、こう尋ねる——「このメールは何を狙っているか。書かれているリンクを押すと、何が起きる可能性があるか。あやしい点があれば挙げてほしい」。するとAIは、人が見落としがちな点も含めて、そのメールの狙いと危険性を言葉で分解してくれる。「差出人の名前と実際の送信元が食い違っている」「不安をあおって急がせ、確認する間を与えない書き方になっている」といった具合に、判断の材料を並べてくれる。

つまり、人間の「なんとなく大丈夫そう」という、いちばんあてにならない部分を、その都度きちんと分解する作業に置き換える。見分けの自信を人がつけるのではなく、迷ったらAIに読ませる、という手順そのものを持つことが安心になる。

  • 向く場面:あやしいメールが日々届き、社員が「これ大丈夫ですか」と迷う場面が多い会社。誰も確信を持って答えられず、判断が属人的になっている会社。
  • 割に合わないこと:AIが「安全」と言ったから絶対に安全、とはいかない。説明はあくまで判断材料であって、最終的に「押す・押さない」を決めるのは人だ。また、社外に出せない情報を含むメールをそのまま貼り付けてよいかは、扱いに注意がいる(本文だけにする、機密部分を伏せる、など)。
  • 始める前に要ること:迷ったメールをAIに読ませる、という手順を「うちのやり方」として決めておくこと。どのメールを・どこまで貼ってよいか、線引きを一度決めておくと、安心して使える。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「見分けをAIに肩代わりさせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:入り口を一段、多重にする

見分けを誤って、IDとパスワードを入力してしまっても、それだけでは乗っ取られないようにしておく。パスワードに加えて、スマホに届く確認やアプリでの承認など、もう一つの要素を通らないとログインできない形(多要素認証)にしておく道だ。パスワードが盗まれただけでは入れないので、被害の広がりを一段抑えられる。

  • 向く場面:メール・クラウド・会計など、乗っ取られると影響の大きいサービスを使っている会社。まだパスワードだけでログインしているサービスがある会社。
  • 割に合わないこと:これも万能ではない。前述した「入力情報をその場で中継する手口」では、確認コードごと突破される場合がある。とくに、SMS(ショートメッセージ)で届くコードを使う方式は、他の方式に比べてすり抜けられやすい。偽サイトでは成立しない仕組みの方式(パスキーなど)のほうが崩れにくいが、使っているサービスが対応しているか、機種変更のときに引き継げる設定になっているかで、使い勝手は変わる。「多要素認証を入れたから安心」で止めず、A案・C案と重ねる前提で扱う。
  • 始める前に要ること:どのサービスが多要素認証に対応しているかを確認し、影響の大きいものから設定していくこと。設定の手順は、各サービスの案内ページに用意されていることが多い。

C案:「これ怪しい?」と、すぐ言える空気を作る

被害が広がる決定的な時間は、押した後の沈黙だった。ならば、その沈黙をなくす。「怪しいメールが来た」「うっかり押したかもしれない」を、叱られる心配なく、すぐ一報できる先を一つ決めておく道だ。踏んだこと自体を責めない、と経営者が先に態度で示しておくことで、報告が早くなり、その分だけ被害を止めやすくなる。

  • 向く場面:社員が「言ったら怒られる」と感じて、ミスを抱え込みがちな会社。誰に言えばいいか決まっておらず、報告が遅れがちな会社。
  • 割に合わないこと:これは仕組みというより、経営者の姿勢で決まる部分が大きい。「報告した人が責められる」空気が一度でもあると、途端に機能しなくなる。ここは技術で肩代わりできない領域である。
  • 始める前に要ること:「怪しいと思ったら、まずここに言う」という一報先を一つ決め、全員に伝えること。そして、早く言った人を責めない、と経営者が明言しておくこと。

並べた三つに、優劣はない。見分けをAIに手放し(A)、入り口を多重にし(B)、踏んだ後をすぐ言える(C)——この三つは競合せず、重ねるほど「見分けられなくても被害が広がらない」に近づく。一度に全部でなくてよい。手が届くところから順に、というのが現実的な進み方だ。

自分でできる、はじめの一歩

ここから先は、お金をかけずに試せる。

一つ。判断に迷ったメールを、次に一通、AIに貼り付けて「これは何を狙っているか」と聞いてみる。それだけで、自分の「なんとなく」がどれだけあてにならなかったかが分かる。この一度の体験が、見分けを人の勘に頼らないという発想への入り口になる。

もう一つ。「怪しいメールが来たら・うっかり押したら、まずここに言う」という一報先を一つ決めて、社内に伝える。そして、早く言った人を責めない、と一言添える。これも無料で、今日決められる。

この一歩でできるのは「見分けを人任せにしない習慣の入り口を作る」「踏んだ後の沈黙を短くする」までだ。そこから先、どのサービスに多要素認証を入れるか、どの方式が自社に合うかといった、踏み込んだ判断が残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「AIに読ませるといっても、どこまでメールを貼っていいのか分からない」「多要素認証を、どのサービスから・どの方式で入れればいいのか自社では判断できない」「すでに押してしまった気がするが、今どうすべきか分からない」——そういう声は、実際によく出る。あやしいメールは、判断を一つ誤れば取引先まで巻き込む。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちにはこういうメールが来ていて、どこから手をつけたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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