中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

データのバックアップを取っているか、自信が持てない

バックアップを取っているはずなのに、なぜか自信が持てない。その不安の正体は「取れているか」ではなく「いざというとき戻せるか」にある。多くの会社のバックアップは、一度も戻す実験をしていないために、取っているつもりのまま復元できない状態で眠っている。

「バックアップ、取ってる?」と聞かれて、「たぶん、取れている……はず」としか答えられない。外付けのハードディスクにもクラウドにもコピーされる設定にした記憶はある。それでも、いざ何かあったときに本当に元へ戻せるのか、と問われると、急に足元が心もとなくなる——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 外付けハードディスクやNAS(社内の共有ストレージ)に、毎晩自動でコピーされる設定にした。だが、最後にその中身を開いて確かめたのが、いつだったか思い出せない。
  • クラウドに同期しているから大丈夫だと思っている。ファイルは常にクラウド側にもあるはずだ、と。
  • バックアップソフトの画面には「正常」と出ている。でも、そこから実際にファイルを取り出して元に戻したことは、一度もない。
  • 前の担当者が設定してくれたバックアップが、今も本当に動いているのか、社内の誰も確かめていない。
  • 「うちのデータ、もし明日全部消えたら、何日で戻せる?」と聞かれて、答えられない。

どれも「取っていないわけではない」。むしろ、取ろうとして手を打ってある。それなのに自信が持てない。この居心地の悪さには、はっきりした理由がある。

デスクに置かれた外付けハードディスクと、パソコン画面に表示された「バックアップ:正常」の文字。手前の付箋に「最終確認 いつ?」と書き殴られている様子

たいてい、こう考える

この不安に気づいたとき、たいていの会社が取る手は決まっている。

「もっとちゃんとバックアップを取ろう」。取る場所を二重にする。外付けだけでなくクラウドにも上げる。取る回数を増やす。新しい外付けを買い足す。どれも筋は通っている。バックアップは、ないよりある方が、少ないより多い方がいい。

だが、ここで増やしているのは、すべて「取る」側の努力である。コピーを何本にするか、どこに置くか、どのくらいの頻度で。増やせば増やすほど、なんとなく安心感は増していく。ところが、その安心が本物かどうかは、実は一度も試されていない。

だが、本当の問題は「バックアップが取れているか」ではない

いざというときに助かるかどうかの分かれ目は、いくつコピーを持っているかではない。問題は「取れているか」ではなく、「戻せるか——一度でも、戻したことがあるか」にある

これは印象論ではない。警察庁が公表しているランサムウェア被害の調査(令和7年)で、バックアップからの復元結果を答えた99件のうち、元どおり復元できたのは20件。5件に4件は、戻せなかった。取っていなかったのではない。取っていて、戻せなかったのである。しかも復元できなかった理由を答えた72件のうち、48件——3件に2件は「バックアップそのものが暗号化された、または消された」だった。そして復元できた割合は、令和3年から令和7年まで2割前後のまま動いていない。

ここに、この困りごとの核心がある。多くの会社のバックアップは、本体データのすぐ隣に、常時つながった状態で置かれている。外付けハードディスクはつなぎっぱなし、NASは社内ネットワークの中、クラウドは自動で同期。普段の使い勝手を考えれば、それが自然だ。ところが、その「つながっている」という性質が、いざというときに裏目に出る。パソコンやサーバーが攻撃を受けて中身を書き換えられると、常時つながったコピーも、その場でまとめて巻き添えになる。同期しているクラウドなら、壊れたデータがそのままクラウド側にも上書きされていく。本体のすぐ隣に置いた"同じ場所のコピー"は、いざというときの保険にはならない

そして、もう一つ。「正常」と表示され続けていたバックアップが、実は途中から中身が空だった、設定が変わって別のフォルダを保存していた、という食い違いも珍しくない。取っているつもりの表示と、実際に戻せる中身とは、別のものだ。バックアップは"保存した時点"で成立するのではなく、"そこから復元できて初めて"成立する。自信が持てないのは、意志が足りないからでも、知識が足りないからでもない。ただ一度も、"戻す実験"をしたことがないからだ。取ったコピーが本当に生きているのか、誰も確かめていない——その未確認の状態が、あの居心地の悪さの正体である。

では、どう考えるか

考える軸は、二つに絞れる。

一つ目。本体と切り離した居場所を、少なくとも一つ持つ。バックアップの世界には「3-2-1」という業界で使われる目安がある。コピーを3つ、2種類の異なる保存先に、そのうち1つは離れた場所に置く、という考え方だ。数字を丸ごと守る必要はない。中小企業にとって効いてくるのは最後の一点——本体と常時つながっていない、あるいは後から書き換えられない保存先を、一つでも確保しておくこと。ここが、巻き添えで全滅するか、一世代でも生き残るかの分かれ目になる。

二つ目。「取れているか」ではなく「戻せるか」で確かめる。画面の「正常」を眺めるのではなく、実際に一度、そこからデータを取り出して元に戻してみる。戻せれば、そのバックアップは本物だと分かる。戻せなければ、直すべき点がその場で見つかる。どちらに転んでも、"自信が持てない"という宙ぶらりんの状態からは抜け出せる。大事なのは、この確認を気合いや記憶に頼らないことだ。人が「そろそろ確かめなきゃ」と思い出す方式は、忙しい現場ではまず続かない。

選び方:道はいくつかある

バックアップへの向き合い方には、いくつかの道がある。どれが合うかは、会社の置かれ方で変わる。

A案:バックアップは自動で取り、「戻せる状態か」の見張りをAIに任せる

バックアップそのものの主役は、あくまで自動で動く仕組みだ。人が手でコピーするのではなく、決めた保存先へ勝手に取られ続けるようにしておく。その土台の上で、いちばん抜けやすい「本当に戻せる状態か」の見張りを、人ではなくAIに肩代わりさせる、という道がある。やってもらうのは、点検と、声かけだ。

実際の流れは、こうなる。バックアップの実行記録(いつ・どこへ・何メガバイト取れたか)と、最後に復元を試した日付を、決まった形でAIに渡るようにしておく。渡す部分を自動で動かす形に組んでおけば、こちらが思い出さなくても、節目でこう声がかかる状態にできる。

  • 「直近3か月、一度も"戻す実験"がされていません。バックアップが本当に生きているか、確かめどきかもしれません」
  • 「昨夜のバックアップは、いつもより容量が極端に小さく取れています。中身が空になっている可能性があります」
  • 「このコピー先は本体と常時つながった場所にあります。切り離した保存先が別に一つあるか、確認しませんか」

つまり、「思い出して、画面を開いて、確かめる」という、人がいちばん続けられない部分を、まるごと肩代わりさせる。復元できる状態かどうかの管理を、人の記憶や規律ではなく、見張り役の仕組みに置き換える、という考え方だ

  • 向く場面:バックアップは一応動いているが、それが生きているかを誰も追えていない。ITに専任を割けず、確認がいつも後回しになる会社。
  • 割に合わないこと:AIに実行記録を渡せる状態を最初に一度そろえる手間はかかる(ここは人がやる)。渡す部分を自動で動かすところまで組まないと、自分から声はかからない。またAIができるのは「ここが怪しい」と気づかせるところまでで、実際に戻す作業と、戻していいかの最終判断は人がする。
  • 始める前に要ること:バックアップの実行記録が残る状態にしておくこと。加えて、切り離した保存先を一つ用意しておくと(B案)、見張りの値打ちがぐっと上がる。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「点検と声かけをAIに任せる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:本体と切り離した保存先を、一つ確保する

今あるバックアップに加えて、本体と常時つながっていない、あるいは後から書き換え・削除ができない保存先を一つ用意する。巻き添えでの全滅を防ぐ、いちばん効く一手である。

  • 向く場面:コピーはあるが、そのすべてが社内ネットワークや同期でつながっている会社。
  • 割に合わないこと:切り離した保存先は、普段の使い勝手が少し落ちる(すぐには開けない・自動反映されない場合がある)。保存先の費用も別途かかる。
  • 始める前に要ること:今のバックアップがどこに・どうつながっているかを一度たどること。「離れているつもり」が実はつながっていた、を先に潰す。

C案:バックアップと復元の確認を、まとめて外部に任せる

自動で取る仕組みの用意から、切り離した保管、戻せるかの確認までを、詳しい外部の事業者やIT顧問に任せてしまう道。

  • 向く場面:社内にITを追える人がおらず、仕組みづくりも点検も自前では手が回らない会社。
  • 割に合わないこと:継続して費用がかかる。任せきりにして中身をまったく把握しないと、いざというときの判断が遅れる。
  • 始める前に要ること:守りたいデータは何か、止まると困る業務はどれかを、自社の言葉で伝えられるように整理しておくこと。

正解を一つ決めるための並びではない。続けられそうなところが、始めどきになる。一度に完璧を目指すと、途中で止まりやすい。

自分でできる、はじめの一歩

費用をかけずに、今日のうちに確かめられることがある。

今あるバックアップから、実際に一つだけファイルを取り出して、別の場所へ戻してみる。適当な一つでいい。ちゃんと開けて、中身が読めたら、そのバックアップは生きている。取り出せない・開けない・見当たらないなら、それは「取っているつもり」だったということが、実害が出る前に分かったことになる。"戻せた"を一度でも確かめれば、自信が持てないという状態そのものが消える

もう一つ。そのバックアップの保存先が、パソコンやサーバーと常時つながっているかを見てみる。つなぎっぱなしの外付け、同期しっぱなしのクラウド——それらは、本体がやられれば一緒に巻き込まれる側だ。「離れた一つ」が手元にあるか。ここを確かめるだけでも、危うさの在りかがはっきりする。

この一歩でできるのは「今のバックアップが本物か、つもりだったかを見分ける」ところまでだ。そこから先、どう仕組みにして続けるか、という問いが残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「戻す実験のやり方が分からない」「切り離した保存先といっても、何をどう選べばいいのか見当がつかない」「AIに見張らせるにも、何を渡せばいいのか」——この辺りで足が止まる会社は多い。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちのバックアップ、これで戻せるのか自信がない」——その一点を一緒に確かめるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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