中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

無料のツールやAIに、顧客情報や社内文書を入れてしまって大丈夫なのか

便利だから、顧客名や社内文書をそのままAIに貼り付けている。だが入れた情報がどう扱われるかは、誰も確かめていない。答えは「使うな」ではなく、「どの情報を、どう設定して使えば安全か」という線引きを持つことにある。

見積書の文面を整えてもらう。長い議事録を要約してもらう。クレームへの返信の下書きを書いてもらう。無料で使えるAIは、日々の細かな作業をずいぶん軽くしてくれる。だから、顧客の名前が入った文章も、社外秘のつもりだった資料も、そのまま貼り付けて送信ボタンを押している。速いし、便利だし、実際に助かっている。ただ、その入力欄に打ち込んだ情報が、そのあとどこへ行き、どう扱われるのか——それを一度でも確かめた人は、社内にどれだけいるだろうか。この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 顧客とのやり取りのメール文面を、宛名や社名を入れたままAIに貼り付けて、返信の下書きを作らせている。
  • 社外秘のつもりだった企画書や見積書を、要約や清書のためにそのまま入力欄に流し込んでいる。
  • 「無料で使えるから」と、各自が思い思いに、いろいろなAIやツールを試している。誰がどれに何を入れているかは、把握できていない。
  • 便利なので使い続けているが、「入れた情報が学習に使われる」という話をどこかで聞いて、なんとなく不安が残っている。
  • かといって「AIは危ないから禁止」と言い切るのも、今さら現実的ではない気がしている。
  • 入れてしまった顧客情報が、もし外に出ていたらと考えると落ち着かないが、確かめ方が分からないので、考えないようにしている。

一つひとつは、仕事を前に進めるための、ごく自然な動作だ。だからこそ、立ち止まって確かめる機会がないまま、情報だけが外のサービスへ流れていく。

ノートPCのAIチャット画面。顧客名や社内文書とおぼしき文章を貼り付けて、送信ボタンの手前で一瞬、手が止まっている様子

たいてい、こう考える

この不安に気づいたとき、会社の反応は、たいてい両極のどちらかに振れる。

一方は、「危ないなら、禁止しよう」。AIやクラウドのツールに業務情報を入れることを、社内で一律に止める。もう一方は、「みんな使っているし、今のところ問題も起きていない」と、これまでどおり使い続ける。どちらも気持ちは分かる。だが、どちらもうまくいきにくい。

禁止したところで、AIが目の前の作業を確実に軽くする道具であることは変わらない。現場は締め切りに追われている。すると、禁止されたことは表に出さずに、こっそり自分のスマホや個人のアカウントで使うようになる。禁止は、使用そのものではなく、使用の報告を消してしまう。会社から見て「誰が何を入れているか」がいっそう見えなくなるという、逆の結果を招く。

かといって、気にせず使い続けるのも、確かめていないという一点で足元が定まらない。結局のところ、この二択は「AIは危険か、安全か」を、製品そのものの性質として決めようとしている点で、同じ迷い方をしている。

だが、本当の問題は「AIが危険かどうか」ではない

入れた情報が心配になるとき、多くの人は「このAIは安全なのか、危険なのか」を知りたがる。だが、安全か危険かを、製品の看板で見分けようとすること自体が、この問題の勘所を外している。

まず、よく言われる二つの言い回しは、いまの実態とずれている。「無料だから危険で、有料だから安全」というのは、正確ではない。そして「AIに入れたら、必ず学習に使われる」というのも、正確ではない。

個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIの利用について事業者向けの注意喚起を出している。そこで求められているのは、個人データを含む内容を入力する場合、そのサービスの提供者が「それを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」である。この一文は、裏を返せば、機械学習に使わせない設定や契約が「ありうる」ことを前提にしている。つまり、入れたら必ず学習される、でもなく、入れても絶対に安全、でもない。判断の軸は、値段の高い安いではなく、そのサービスで入力がどう扱われるかを確かめたかどうかにある。(2026年7月時点。制度や各社の方針は変わるため、利用するサービスの最新の利用規約・データ利用ポリシーで確認する必要がある。)

事実、公的機関の中にも、職員が使う生成AIの環境を、入力データを学習に使わせず、サーバー側にも残さない設定にして運用している例がある。東京都は、そうした「オプトアウト」の仕組みを使う旨を明記して運用していると公表している。安全か危険かは、製品にあらかじめ貼られた札で決まるのではなく、そのサービスをどう設定し、どんな契約で、何を入れて使うかで変わる——ここが核心だ。

だから、本当に確かめるべきなのは「このAIは安全か」ではない。入れた情報がどう扱われるかを確認し、扱いを自社で制御できる状態にできているか、である。危ないから遠ざけるのでも、便利だから目をつぶるのでもなく、扱いを見える状態に置く。ここに向き合わないかぎり、禁止しても使い続けても、不安の芯は消えない。

では、どう考えるか

考え方を、「使うか・使わないか」から「どの情報を、どう設定して使うか」に切り替える。押さえどころは、大きく二つある。

一つ目は、入れる前に「扱い」を確かめること。使おうとしているサービスの利用規約とデータ利用ポリシー、そして設定画面に、「入力した内容が学習に使われるか」「使わせない設定があるか」が書かれている。ここを一度読んで押さえる。

二つ目は、その線引きを、人の心がけではなく仕組みで効かせること。「機密情報は入れないように気をつけよう」と一人ひとりの注意に頼る方法は、忙しい現場では続かない。締め切りの前では、注意はいちばん先に抜け落ちる。だから、注意でなく既定で守る。管理者設定や法人向けの契約で「学習に使わせない」を最初から標準にしてしまえば、誰かがうっかり貼り付けても、扱いは制御された側にある。あるいは、そもそも顧客名や個人情報は伏せて入れる(実名を「A社」に置き換えるなど)使い方に業務を寄せておけば、何を入れても外に出て困る情報がそこにない。IPA(情報処理推進機構)は、AIを使う人への注意点として「クラウドAIに営業秘密は教えない」を挙げている。組織として「入れてよい情報・入れない情報」の線を先に引いておく、という考え方である。

要は、気をつけるのではなく、気をつけなくても大丈夫な使い方を、最初に一度だけ設計しておく。この一度の設計が、その後ずっと効き続ける。

選び方:道はいくつかある

扱いを制御する道は、一つではない。会社の状況によって、始めやすい入り口は違う。

A案:AIに、そのサービスの規約とポリシーを読ませて、線引きの下地を作らせる

利用規約やデータ利用ポリシーは、長くて、専門用語が多く、読む気を失わせる。だからこそ誰も読まないまま情報を入れている——ここを、AI自身に肩代わりさせる、という道がある。

使い方としては、たとえばこうなる。使おうとしているサービスの利用規約とデータ利用ポリシーのページを、そのままAIに読み込ませ(本文を貼り付けるか、URLを渡す)、次のように尋ねる。「この規約で、入力した内容は学習に使われますか。使わせない設定やオプトアウトの方法はありますか。あるなら、その手順を教えてください」。すると、長い文書の中から、知りたい要点だけを取り出して整理してくれる。そのうえで、「自社が渡してよい情報」と「渡してはいけない情報」の線引きの下書きを作らせることもできる。読むのに一時間かかっていた確認が、数分の下地作りに変わる。

  • 向く場面:使っているサービスがいくつもあって、どれも規約を読めていない。何をどう確かめればいいのか、取っかかりが分からない会社。
  • 割に合わないこと:AIは規約を要約するが、読み違えることもあるし、規約そのものが古い・改定されている場合もある。AIに整理させるのは下地までで、それを最終的な社内の線引きにしてよいかの判断は、必ず人がする。特に、個人情報保護法に触れる微妙な判断は、AIの要約だけで決めない。
  • 始める前に要ること:確かめたいサービスの、利用規約とデータ利用ポリシーのページ(またはURL)を手元にそろえること。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「規約を読む手間をAIに肩代わりさせ、線引きの下地を作る」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:管理者設定や法人契約で、「学習させない」を既定に固定する

一人ひとりの注意に頼らず、会社として扱いを最初から制御する。管理者向けの設定や法人向けの契約が用意されているサービスなら、「入力を学習に使わせない」を組織の既定として設定してしまう。

  • 向く場面:すでにAIを業務で日常的に使っていて、これからも使い続ける前提の会社。
  • 割に合わないこと:どのサービスに、どんな管理者設定や法人プランがあるかは、サービスごとに異なり、改定でも変わる。設定の有無・内容は、各サービスの最新の情報で確認する必要がある(2026年7月時点)。設定作業や、場合によっては契約プランの見直しの手間がかかる。
  • 始める前に要ること:今、業務で使っているAIやツールを洗い出すこと。そのうえで、それぞれに管理者設定・法人契約があるかを確かめる。

C案:そもそも、機微な情報は入れない使い方に絞る

扱いを制御しきる自信がないなら、外に出て困る情報を、そもそも入力欄に載せないと決める。顧客の実名や個人情報、営業秘密は、伏せる・置き換える・省くことを前提に使う。

  • 向く場面:AIに任せたい作業の多くが、文章の清書・要約・言い回しの調整など、固有名詞がなくても成り立つ会社。
  • 割に合わないこと:伏せる・置き換えるひと手間が、都度かかる。手間を惜しむと、結局そのまま貼り付けてしまい、形だけになる。
  • 始める前に要ること:「これは入れてよい/これは伏せる」の境目を、具体例で一度そろえておくこと(顧客名・住所・電話番号・見積金額などは伏せる、といった粒度で)。

どれが上ということもない。多くの場合、A案で自社の線引きの下地を作り、それをB案かC案の形で仕組みに落とす、という組み合わせになる。一度に完璧を目指さず、始められるところから手をつける。

自分でできる、はじめの一歩

一円もかけずに確かめられることがある。

今、業務でいちばんよく使っているAIやツールを一つだけ選ぶ。その設定画面か、データ利用に関するページを開いて、「入力した内容を学習に使う」といった項目があるかを、一度だけ見てみる。オンになっているか、オフにできるか、それを探すだけでいい。もし見つけ方が分からなければ、その規約のページをAIに貼り付けて、「この中に、入力を学習に使うかどうかの記述はありますか」と尋ねる。これも無料で、数分で終わる。

もう一つ。今日から誰かがAIに何かを貼り付けるとき、頭の中で一言だけ確かめる——「これがそのまま外に残っても、困らないか」。困ると感じた情報は、伏せるか、入れないでおく。

この一歩でできるのは、「今使っているものの扱いを一度だけ見る」「明らかにまずい情報を止める」までだ。そこから先、どこまで制御できているか、法律に触れる線はどこか、といった判断が残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「規約を読んでも、結局うちの使い方が大丈夫なのか判断がつかない」「もう入れてしまった顧客情報が、外に出ていないか心配だ」「管理者設定と言われても、どこをどう触ればいいのか分からない」——同じところで詰まる会社は少なくない。特に、入れてしまった後の対応は、慎重を要する。会話履歴の削除やオプトアウトの申請ができるサービスもあるが、その手段の有無や、一度学習に取り込まれた後にどこまで扱いを戻せるかは、サービスごとに異なり、一律には言えない。顧客の個人データを不適切に外部へ入れてしまった場合、事案によっては、個人情報保護法上の対応の要否を検討すべきこともある。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこういう使い方をしていて、どこから手をつけて、どう線を引けばいいのか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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