中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

退職した人が、まだ会社のデータに入れるかもしれない

辞めた人のアカウントが、消えないまま残っている。原因は消し忘れではなく、「誰が・何に・どこまで入れるか」を一覧で見られる場所が無いことにある。消せるのは、覚えている分だけだからだ。

人が一人辞めた。引き継ぎも済んで、最終出社日も無事に終わった。送別会もした。それで一区切り、のはずだった。ところが半年後、共有のクラウドサービスの利用者一覧に、その人の名前がまだ残っているのを見つける——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 共有のクラウドサービスの利用者一覧を開いたら、半年前に辞めた人の名前が、まだそこにある。
  • 「あのファイル、誰がアクセスできる設定だっけ」と確認したら、もう社内にいない人のメールアドレスが共有先に入っている。
  • 業務で使っているツールに、何人分のアカウントがあるのか、そもそも正確な数を誰も把握していない。
クラウドサービスの利用者一覧に、すでに退職した人の名前が残っているのを見つけて、手が止まる場面

「セキュリティが不安」という言葉が出るとき、たいていその裏には、こういう「消えていないはずのものが、消えていなかった」という小さな発見が隠れている。

たいてい、こう考える

最初に出てくる手は、たいてい同じだ。

「うちの担当が、消すのをうっかり忘れただけだ。次からは、辞める人が出たらすぐ消すように気をつければいい」

だから、念を押す。「退職者が出たら、その日のうちにアカウントを止めること」「使っていた権限を、漏れなく外すこと」。担当者に、しっかりやるよう伝える。

止めるべきものを止める、という手当て自体は、道理に合っている。

だが、本当の問題は「アカウントの消し忘れ」ではない

だが、気をつけると決めても、しばらくするとまた同じことが起きる。なぜか。

本当の問題は、消すのを忘れたことではなく、「誰が・何に・どこまで入れるか」を一覧で見られる場所が、そもそも無いことにある

人が辞めるとき、止めなければならないものは一つではない。社内のパソコンへのログイン、メール、共有フォルダ、いくつものクラウドサービス、業務ツール、ときには取引先のシステムへの入り口まで。それらがバラバラの場所に、バラバラに存在している

一覧が無いと、人は「自分が覚えている分」しか消せない。覚えているものは消える。だが、誰も覚えていないもの、もともと把握していなかったものは、消しようがない。消し忘れたのではなく、「在ることを知らなかったから残った」のである。

そして、こうして残ったアカウントは、ただ残っているだけではない。使われないまま放置されたIDは、誰も日常的に見ていない入り口である。日々使うアカウントなら、身に覚えのないログインや不審な動きに、いつか誰かが気づく。だが、誰も使わないアカウントは、外から入り込まれても、それに気づく人がいない。退職者のものに限らず、使われず残ったIDは監視の外にあり、乗っ取られても発見が遅れる。

つまり、辞めた人のアクセスが残るのは、担当者の注意が足りないせいではない。「いま・誰が・何に入れるのか」を映す一枚の鏡が無いから、消す側はいつも記憶だけを頼りに作業することになる。ここが本当の原因である。

では、どう考えるか

そうなると、考えるべきは「どうやって忘れずに消すか」ではなくなる。問うべきは、次のことだ。

いま、自社の中で「誰が・何に・どこまで入れるか」を、一覧で言える状態になっているか

たいていの会社は、なっていない。だとすれば、必要なのは個人の注意力ではなく、入れる人と入れる先を一覧で把握し、辞めた人をそこから確実に外せる仕組みを持つことだ、という見方になる。

道具を入れるかどうかの前に、まず自社が「誰が何に入れるかを把握できているか」を見極める。これが判断の出発点になる。

選び方:道はいくつかある

「一覧で把握する必要がある」と分かっても、進み方は一つではない。代表的な四つを、横に並べて見てみる。四つのうちどれが現実的かは、会社によって入れ替わる。

A案:使っているサービスの一覧をAIに持たせ、退職者の入り口を洗い出す

退職者のアクセスが残るのは、消す側が「自分の記憶」だけを頼りに作業するからだった。その記憶の代わりを、人ではなくAIに持たせる、という道がある。社内で使っているサービスとアカウントの一覧をAIに渡しておき、人が辞めたときにその名前を伝えると、「この人が、まだ生きている入り口はここです」と、一覧の上から漏れを拾い上げ、止め忘れを指摘してくれる。人の頭の中にしかなかった鏡を、AIに持たせるという発想である。

  • 向く場面:使っているサービスの数が多く、誰が何に入れるのかを一人の頭では追いきれない。人の出入りがそれなりにあり、そのたびに止め漏れが不安になる。
  • 割に合わないこと:万能ではない。AIに渡すための一覧を、最初に一度そろえる手間はかかる(ここは人がやる)。AIは「まだ生きている入り口」を挙げてくれるが、本当に止めていいか、いつ止めるかの最終判断は人がする。
  • 始める前に要ること:社内で使っているサービスとアカウントの一覧を、一度つくること。この一覧が無いと、渡すもとが無く、AIも洗い出しようがない。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「一覧を持たせて、退職者の入り口を洗い出させる」という考え方を指している。どれが合うかは、自社の状況によって変わる。

B案:いまのやり方を、台帳で支える

使っているサービスとアカウントを、一枚の表(紙でも表計算でもよい)に書き出して管理する。退職時はその表を上から見て、一つずつ外していく。

  • 向く場面:使っているサービスもアカウントも数が少なく、出入りする人もめったにいない。
  • 割に合わないこと:サービスや人が増えると、表を最新に保つ手間そのものが負担になり、いずれ表と実態がずれる。
  • 始める前に要ること:「誰が・いつ表を更新するか」を一人に決めて、入退社のたびに必ず触ること。

C案:入り口を、まとめて管理する道具に移す

社内のいろいろなサービスへのログインを、一つの入り口(いわゆるアカウント統合管理やシングルサインオンと呼ばれる種類の仕組み)でまとめる。うまくつなげたサービスについては、一か所で止めれば、ぶら下がる先も止まる。ただし、つないでいないサービスや、そのサービスに直接ログインできる手段が残っているものは、この方法では止まらない。

  • 向く場面:使っているクラウドサービスが多い。人の出入りがそれなりにある。止め漏れの不安を、仕組みで消したい。
  • 割に合わないこと:導入の準備(どのサービスをつなぐか、誰がどこまで入れるかの設計)に手間がかかる。月々の費用が発生することが多い。
  • 始める前に要ること:いま社内で何のサービスを使っているかを、一度すべて洗い出すこと。これを飛ばすと、つなぎ忘れたサービスがそのまま管理の外に残る。

D案:そもそも、入れる範囲を絞り直す

道具を変える前に、「全員が・全部に入れる」状態そのものを問い直す。本当に必要な人にだけ、必要な範囲だけを開ける。開けている口を減らせば、止める手間もリスクも減る。

  • 向く場面:とりあえず全員に同じ権限を渡している。誰がどこまで見られるべきか、決めたことがない。
  • 割に合わないこと:すぐには楽にならない。「誰に何を許すか」を考えて決める時間が要る。
  • 始める前に要ること:現場の人が「実際の仕事で、どこまで見る必要があるか」を聞き取ること。

ここでは製品名でなく「種類」で並べている。自社の事情に合うものを選ぶための材料である。

自分でできる、はじめの一歩

手元にあるものだけで、今日から試せることがある。

  1. 使っているサービスを、書き出してみる。 社内で使っているクラウドサービス・業務ツール・共有の入り口を、思いつく限り一枚に並べる。「こんなにあったのか」と分かるだけで、止めるべき対象の全体が見えてくる。
  2. 直近で辞めた一人を、追いかけてみる。 いちばん最近辞めた人を一人選び、書き出した一覧の上から「この人のアカウントは、ちゃんと止まっているか」を確かめていく。一つでも生きているものが見つかれば、それが今のやり方の穴である。
  3. 「全員が入れる」場所を、一つ見直す。 誰でも入れる設定になっている共有フォルダやサービスを一つ選び、「本当に全員が入る必要があるか」を考えてみる。一度に全部を見る必要はない。範囲を絞る感覚を一度つかむのが目的である。

ここまでは、誰でも、今日から、無料でできる。

残るのは、この先だ。数多くのサービスへの入り口を一か所にまとめて管理する設計には、時間と、ある程度の専門の知識が要る。「どの種類の仕組みが自社に合うか」「どこまで権限を絞るのが現実的か」の見極めも、社内から見えている範囲だけでは判断が固まりにくい。

それでも、自社の事情が残るときは

実際には、「うちの場合はどうなのか」という個別の事情が必ず残る。使っているサービスの数も、人の出入りの多さも、いま開けている入り口の範囲も、会社ごとに違う。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこういうサービスを使っていて、辞めた人の入り口をどう確かめたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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