「そろそろ、社内にIT担当を一人置きたい」。パソコンのトラブル、ソフトの設定、ネットワークの不調、問い合わせの一次対応——今は経営者か、たまたま少し詳しい社員が片手間でこなしている。その負担が限界に近づき、専任を採ろうと求人サイトを開く。ところが、募集要項の入力欄で手が止まる。何を書けばいいのか、言葉が出てこない——この辞典が扱うのは、その場面である。
こんな場面に、心当たりはないか
- 求人を出そうと思ったが、「必須スキル」の欄に何を書けばいいか分からず、そのまま下書きで止まっている。
- とりあえず「パソコンに詳しい人」「ネットワークが分かる人」と書いてみたが、これで本当に欲しい人が来るのか自信がない。
- 他社の募集要項を見て真似ようとしたが、自社に当てはまるのか判断できない。
- 応募は来たものの、面接で何を確かめればいいか分からず、「感じの良さ」で決めてしまいそうになる。
- 前に一人採ったが、何を任せていいか固まらないまま、結局その人も辞めてしまった。
- 「詳しい人が一人いれば全部片付く」という前提で募集を始めたが、その「全部」が何かを書き出したことはない。
書けないのは、文章を書くのが苦手だからではない。何を書けばいいのかが、そもそも定まっていないからだ。

たいてい、こう考える
この状態になったとき、多くの会社はこう動く。
「求人票のテンプレートを探そう」。ネットで「IT担当 募集要項 例文」を検索し、それらしい雛形を見つけて、自社の名前に置き換える。あるいは「同業他社が出している求人を真似よう」。あるいは「細かいことは、応募が来てから面接で詰めればいい」と、とりあえず広めに出してみる。どれも自然な動きだ。
だが、テンプレートを埋めても、しっくり来ない感覚は消えない。「パソコンに詳しい人」で募集すれば、詳しい人は来るかもしれない。しかしその人が、自社の困りごとを解決してくれる人かどうかは、また別の話だ。真似た募集要項は、真似た他社の事情に合わせて書かれている。埋まったのは欄であって、自社が本当に欲しいものは、まだ言葉になっていない。
だが、本当の問題は「求人票の書き方」ではない
求人票が書けない本当の理由は、文章力でも、良い雛形に出会えていないことでもない。求人票が書けないのは、自社がITに何を求めているのかを、自社自身がまだ言葉にできていないからだ。求人票とは、要するに「自社が求める仕事の中身」を文章にしたものである。その中身がまだ会社の中で固まっていないから、いくら欄を用意されても、埋める言葉が出てこない。書けないのは、要件が定義されていないというサインなのだ。
ここを飛ばして、定義しないまま人を採ると、何が起きるか。採った本人も、何を期待されているのか分からないまま働くことになる。日々降ってくる雑多な頼まれごとを片端からさばく「何でも屋」になり、パソコンの調整から、複合機の紙詰まり、社長のスマホの設定まで、境目なく背負う。求める側も曖昧、応じる側も曖昧。このミスマッチは、採用のあとに表面化する。
さらに、IT職には固有の事情がある。この仕事は、うまくいっているとき、成果が目に見えない。トラブルが起きず、すべてが滞りなく動いている状態こそが、その人の仕事ぶりの証しだ。ところが、問題が起きないことが成果である仕事は、まわりから評価されにくい。何もなければ「何をやっているか分からない」と見られ、何かあったときだけ責められる。そのうえ社内に一人だけだと、相談する相手も、教えを乞う先輩もいない。孤立し、評価もされず、雑用が積み上がる。
つまり、この困りごとは二重の構造を抱えている。入口では「何を求めているか定義できていない」。その先には「一人の専任として抱えさせても、評価しづらく定着しにくい」という職種の性質がある。だからこそ、ここは求人票の書き方を工夫する前に、「採用で解く」という前提そのものが問われる局面である。人を外から入れることが答えとは限らない。
では、どう考えるか
順番を入れ替える。求人票を書いてから中身を考えるのではなく、求人を書く前に、任せたい仕事のほうを先に言葉にする。
やることは、難しくない。今この会社で、日々発生している「ITに関わる困りごと・作業」を、思いつくかぎり書き出す。パソコンの不調、ソフトの設定、社員からの問い合わせ、ネットワーク、データやファイルの管理、新しいツールの検討、取引先とのやりとりの仕組み——大小を問わず、実際に起きていることを並べる。これが、求める要件の素になる。
書き出したら、それを二つに仕分ける。一つは、自社の中に抱えておくべき仕事。自社の業務やデータ、日々の判断に深く関わり、継続して面倒を見る必要があるもの。もう一つは、外部の力や道具で足りる仕事。専門的だが頻度が低いもの、一時的なもの、断続的にしか発生しないもの。
この仕分けをせずに一人を採ると、両方をまとめてその一人に背負わせることになる。逆に、仕分けができれば、「本当に社員として抱えるべき仕事はどれだけあるのか」「それは正社員一人分の仕事量なのか、それとも半分は外に出せるのか」が見えてくる。求人票に書くべき要件は、この仕分けの後で、自然と言葉になる。欄を埋める前に仕分けが要る、という順序になる。
選び方:道はいくつかある
要件を言葉にし、仕分けたうえで、どう手当てするか。選べる道は、いま割ける人手と時間で変わる。
A案:求人を書く前に、AIに「任せたい仕事の棚卸しと言語化」を手伝わせる
要件を書き出して仕分ける、というこの作業そのものを、一人で頭の中だけでやろうとすると、たいてい進まない。何が抜けているかも分からず、どう分類していいかも判断がつかないからだ。ここを、AIに手伝わせる、という道がある。問いへの答えをもらうのではなく、手そのものを借りる話だ。やってもらうのは、散らかった情報の整理と、切り分けの下案づくりだ。
実際にできるのは、こういうことだ。この会社で最近起きたIT関連の困りごと・頼まれごと・作業を、箇条書きでも、思いつくままの文章でもいいので、AIに書き出して渡す。うまくまとめる必要はない。「先週プリンタが動かなくて半日つぶれた」「新しく入った人のメール設定を誰かがやった」といった、断片のままでかまわない。すると、次のようなことができる。
- 渡した困りごとを種類ごとに整理し、「これは日常的に起きている」「これは年に数回」といった頻度の見当をつける。
- そのうえで、「これは社員として社内に抱えたほうがよい仕事」「これは外部のサービスや道具で足りそうな仕事」という、切り分けの下案を示す。
- さらに、社内に抱えるべきと整理された仕事について、「求人票に書くなら、こういう要件になる」という文章の叩き台を出す。
要するに、頭の中で堂々巡りしていた「何を求めているのか」を、いったん外に出して、目に見える形に並べ直してくれる。求人票が書けなかった原因である「要件が言葉になっていない」状態を、対話しながらほどいていく、という使い方だ。
- 向く場面:何を任せたいのか自分でも整理できておらず、そもそも書き出すところから詰まっている会社。まわりに相談できるIT分野の相手がいない会社。
- 割に合わないこと:AIが出すのは、あくまで整理された下案であって、決定ではない。自社の事情や人間関係、これから会社をどうしたいかまでは分からない。抱えるか外に出すか、誰を採るかの最終判断は、必ず人がする。また、渡す情報が断片すぎると、返ってくる整理も粗くなる。
- 始める前に要ること:完璧である必要はないが、「最近ITで困ったこと・頼まれたこと」を、いくつか思い出して手元に用意しておくこと。数日、意識して書きためると精度が上がる。
※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「散らかった要件の整理と切り分けをAIに手伝わせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。
B案:採用を一旦見送り、外部の継続サポートに任せる
仕分けの結果、「社員として抱えるほどの量はない」と見えたなら、無理に採らないという道がある。日常のトラブル対応や問い合わせ先を、外部の継続サポートに置く。
- 向く場面:ITの困りごとは発生するが、頻度がまばらで、一人分の仕事量には満たない会社。まず専任を置く前に、実態の負荷を見極めたい会社。
- 割に合わないこと:自社の業務やデータに深く踏み込む部分は、外部だけでは埋めきれないことがある。会社の中の文脈を知る人がいない不便は残る。
- 始める前に要ること:外に任せる範囲と、社内に残す範囲の線引き。何をどこまで頼むのかが曖昧なままだと、外部委託でも同じミスマッチが起きる。
C案:採用するが、範囲を絞って募集する
抱えるべき仕事があると見えたなら採る。ただし「何でも屋のIT担当」ではなく、仕分けで残った具体的な仕事に絞って要件を書く。
- 向く場面:任せたい仕事がはっきり定義でき、それが一人分の量として見えている会社。
- 割に合わないこと:範囲を絞るほど、応募できる人は限られる。一人にすべてを期待できないぶん、外部との組み合わせが前提になる。
- 始める前に要ること:「要件の言語化と仕分け」を済ませておくこと。加えて、採った人が孤立しない置き方(相談先の確保、評価の仕方)を先に考えておくこと。
共通しているのは、どの道も「まず要件を言葉にする」ところから始まる、という一点だ。そこを飛ばすと、採用でも外注でも、同じミスマッチを繰り返す。
自分でできる、はじめの一歩
お金をかけずに、今日からできることがある。
手帳でもメモアプリでも、一枚の紙でいい。これから一週間、「ITのことで誰かに聞かれたこと」「自分が困って手を止めたこと」を、起きるたびに一行ずつ書き留めてみる。整理も分類もしなくていい。ただ、起きた事実を書きためる。一週間たつと、この会社でITに関して本当に何が起きているのかが、目に見える形で手元に残る。これが、求人票に書く要件の素材になる。雛形と違い、自社で実際に起きたことだけが並ぶ。
雛形を探すより先に、自社で実際に起きていることを一週間集める。それだけで、空欄だった募集要項に入れる言葉が、少しずつ形を持ち始める。
この一歩でできるのは、「何を求めているか」の輪郭をつかむところまでだ。そこから先、抱えるか外に出すか、どう募集するか、採った人をどう定着させるか——判断の要る問いが残る。
それでも、自社の事情が残るときは
「書き出してはみたが、これを社員に任せるべきか外に出すべきか判断がつかない」「そもそも一人採るだけの仕事量があるのか分からない」「AIに整理させるといっても、何をどう渡せばいいのか見当がつかない」——採用は、一度決めると簡単には引き返せず、相手の人生にも関わる。判断が重くなるのは、そのためである。
そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちのITの困りごとはこれくらいで、人を採るべきか迷っている」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。
ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。
うちの場合はどうなのか、という部分は残る。
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