ITやAIを何とかしたい。だが、何をどう相談すればいいのか、そもそも誰に持ち込めばいいのかが分からない。取引のある業者に聞けばいいのか、詳しそうな知人に聞くのか、ネットで探した会社に問い合わせるのか——入口の手前で、足が止まる。この辞典が扱うのは、業者と話し始めるより前、「そもそも誰のところへ行けばいいのか」という、いちばん最初の場面である。
こんな場面に、心当たりはないか
- ITのことを相談できる相手が、社内にも、付き合いのある人の中にも見当たらない。
- 今出入りしている業者に聞くのが早いが、その業者の商品を勧められるだけになる気がして、聞きづらい。
- ネットで「IT 相談」と検索すると会社が大量に出てくるが、どれも似たことが書いてあり、どこがまともなのか区別がつかない。
- 詳しそうな知人に軽く聞いてみたが、結局その人の得意な分野の話に寄っていった。
- 無料相談と書いてあると、あとでしつこく営業されるのではないかと身構えてしまう。
- 何を聞けばいいのかが自分でも整理できておらず、問い合わせフォームの前で手が止まる。
相談先の名前が分からないのではない。むしろ候補は多すぎるほどある。それなのに、どこも安心して持ち込めない——ここに、この困りごとの独特の後味がある。

たいてい、こう考える
誰に相談すればいいか分からないとき、多くの人はこう考える。「詳しい人を探そう」。ITに詳しい会社、実績のありそうな業者、資格を持っていそうな専門家。要は、知識の量で相談先を選ぼうとする。
あるいは「信頼できそうな人を探そう」。対応が丁寧か、感じがいいか、親身に話を聞いてくれるか。人柄や態度で選ぼうとする。
どちらも自然な発想だ。間違ってはいない。だが、この二つの物差し——詳しいか、親切か——だけで相談先を選ぶと、たいてい同じ結末に行き着く。相談したはずが、いつの間にか特定の製品を買う話になっている。詳しくて、親切で、それでいて、こちらが望まない方向へ静かに導かれていく。
だが、本当の問題は「良い相談先を知らないこと」ではない
なぜ、詳しくて親切な相手に相談したのに、製品を売られる話に着地してしまうのか。理由は、相手が悪人だからではない。この世界の構造そのものにある。
ITやAIの世界では、相談に乗ってくれる相手のほとんどが、同時に何かを売る立場にある。製品を扱う会社、システムを開発する会社、機器を納める会社。彼らは親切に相談に乗る。嘘もつかない。だが、扱っていない選択肢は提案できないし、そもそも自社が売れるものへ話が向くのは、責めようのない自然なことだ。相手にとっては、それが仕事なのだから。
つまり、「売る人」と「助言する人」が、同じ顔をしている。この二つが分かれていないことが、誰に相談すればいいか分からない、という感覚の正体だ。目の前の相手が、純粋な助言者なのか、それとも商品を売るための入口として相談を受けているのか。同じ「ご相談ください」という言葉の下で、その二つが見分けられない。だから、相談するほど、特定の製品へ近づいていく。
ここには、人の判断のクセも重なる。丁寧に対応してくれた相手ほど、「この人は信頼できる」と感じてしまう。親身さと中立さは、まったく別のものだ。それなのに、親身にされると、その人の言うことは自社にとっても正しいのだろう、と錯覚しやすい。親切であることと、利害が無いことは、外からは見分けがつかない。
だから、相談先を選ぶ物差しを変える必要がある。詳しいかどうかでもなく、親切かどうかでもない。見るべきは一点、その人は、自分が売らない選択肢——「買わない」「やめる」「今はしなくていい」——を、こちらに勧められる立場か、である。
これが、詳しさや資格や肩書きよりも本質に近い。本当にこちらの側に立つ相手なら、「それは、まだやらなくていい」「そのお金は、別のことに使ったほうがいい」「うちが売れるものの中に、御社に合うものはない」と言えるはずだ。だが、売ることで成り立っている相手は、その言葉を口にすると自分の売上が消える。だから、まず言えない。判断の軸は「詳しいか」ではなく、「その相手の利害が、自社の利害とずれていないか」に置く。これを、この辞典では第三者性と呼ぶ。
では、どう考えるか
考え方の順序を、一つ入れ替える。
多くの人は、いきなり「誰に相談するか」を決めようとする。だが、その前に置くべき問いがある。「この相談は、そもそも何屋に持ち込む話なのか」「相手に会う前に、自分の側で整理しておくべきことは何か」「その相手の第三者性を、どう確かめるか」。この下ごしらえを飛ばして人に会うから、相手のペースに飲み込まれる。
そして、相手が決まったら、名刺の肩書きや対応の丁寧さで判断しない。最初に一つだけ、確かめる。「御社は今回の件で、何かを販売したり、開発を請け負ったりする立場ですか」。ここを濁さずに答え、そのうえで「自社が売れるものの中に合うものがなければ、正直にそう言う」と明言する相手は、信頼の土台がある。逆に、この問いをはぐらかす相手は、助言者ではなく売り手の側にいる。
要は、相談する前に、相手の利害を先に見る。詳しさを測るのは、そのあとでいい。
選び方:道はいくつかある
「誰に、どう相談するか」には、いくつかの道がある。どの道を取れるかは、会社の側の条件で決まる。
A案:まず、AIに「壁打ち相手」になってもらう
人に相談する前に、AIを一次相談の相手に使う、という道がある。これは「AIに正解を出してもらう」話ではない。AIの最大の特徴を、ここでは逆手に取る——AIは、こちらに特定の製品を売る動機を持たない。だから、利害ゼロの相手として、頭の整理に使える。
具体的には、AIとの対話画面に、自社の状況をそのまま言葉で打ち込む。「うちはこういう業種で、今こういうことに困っていて、こんな話を業者から持ちかけられている」。そのうえで、たとえばこう頼む。
- 「これは、そもそも何を専門にしている相手に相談すべき話か、整理してほしい」
- 「業者に会う前に、自社の側で決めておくべきこと・調べておくべきことを、質問の形で並べてほしい」
- 「相手が中立な立場かを見抜くために、こちらから確認すべき質問を挙げてほしい」
すると、こちらの困りごとが「何屋の話なのか」の当たりがつき、人に会う前の準備が整い、相手にぶつける質問が手元にそろう。人間の相談先へ持ち込む前の、下ごしらえ役として使う、ということだ。売り込みの心配なく、何度でも、無料の範囲でも試せる。
- 向く場面:そもそも自分の困りごとを言葉にできていない。誰に相談するかの前に、まず頭を整理したい会社。
- 割に合わないこと:AIは、こちらが渡した情報の範囲でしか整理できない。自社の内情や業界の裏事情までは分からず、答えが一般論にとどまることもある。そして最も大事な点——最終的にどうするかを決めるのは、AIではなく人の側になる。AIは下ごしらえの役であって、決定の主ではない。実際に契約や導入を決める場面では、責任を負える人間が判断する。
- 始める前に要ること:特別な準備は要らない。自社の状況を、思いつくまま言葉で書き出せる状態であれば足りる。うまく書けなくても、AIに「うまく質問できないので、逆に質問して引き出してほしい」と頼む手もある。
※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「売る動機を持たない相手に、頭の整理を手伝わせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。
B案:販売・開発をしない「第三者」に、意見をもらう
すでに具体的な製品やシステムを提案されていて、それが自社に妥当かを、別の目で見てほしい場合。医療でいうセカンドオピニオンにあたる。鍵は、その相手が製品販売やシステム開発で稼いでいないこと。「うちは今回、何も売りません」と明言できる立場の人を選ぶ。
- 向く場面:業者からの提案がすでに手元にあり、その妥当性だけを中立の目で確かめたい会社。
- 割に合わないこと:販売・受託をしない立場かどうかを、こちらから確かめる手間が要る。継続的な助言を受けるなら有料になることも多い。
- 始める前に要ること:相手に会ったら最初に「御社はこの件で、何かを販売・受託する立場ですか」を確認すること。ここを曖昧にしたまま話を進めない。
C案:公的な無料相談窓口に、まず持ち込む
国や自治体、商工会議所などが設けている、中小企業向けの無料相談窓口を使う道。こうした窓口は、その場で製品を売って稼ぐ仕組みではないため、売り込みの動機が構造的に小さい。
- 向く場面:まず費用をかけず、営業される心配のない場所に、状況だけ置いてみたい会社。
- 割に合わないこと:窓口によって、対応できる範囲・条件・回答までの早さが違う。踏み込んだ実装や、自社専用の細かい設計までは扱わないことが多い。
- 始める前に要ること:自社の困りごとを、ひとまず一言で言えるようにしておくこと(ここはA案の下ごしらえがそのまま役に立つ)。窓口ごとに利用条件が異なるため、対象や費用は事前に確認する。
まずA案で頭を整理し、その手土産を持ってB案やC案の人間の相談先へ行く——という重ね方もできる。一度に全部を決めようとしないほうが、結局まっすぐ進む。
自分でできる、はじめの一歩
手元にあるものだけで、今日から試せることがある。
これまで相談を持ちかけた相手、あるいはこれから相談しようとしている相手を、一人ずつ思い浮かべてみる。そして、それぞれにこの一言を当てていく——「この人は、自分が売らない選択肢を、こちらに勧められるだろうか」。「それは買わなくていい」「今はやめておいたほうがいい」と、その相手が言う姿を想像できるか。すぐに想像できる相手は、第三者性がある。想像しにくい相手は、助言者ではなく売り手として付き合うほうが、話が読みやすくなる。
もう一つ。次に誰かへ相談する前に、AIとの対話画面に自社の状況を打ち込んで、「これは何屋に相談する話か」「相手に何を確認すべきか」を一度だけ整理させてみる。数分で終わり、費用もかからない。
この一歩でできるのは、「相手の立場を見分ける」「会う前の準備をする」までだ。そこから先、実際にどの相手と組み、何を決めるかという判断は残る。
それでも、自社の事情が残るときは
「AIで整理してみたが、結局どこへ持ち込めばいいのか決めきれない」「近くに、何も売らずに意見をくれる相手が見当たらない」「そもそも自社の困りごとが、ITの話なのかどうかも分からない」——相談先が、構造的に売り手と重なっている。
そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちの場合、誰に、何を、どう相談すればいいのか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。
うちの場合はどうなのか、という部分は残る。
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大阪の中小企業のための、IT・AI活用の困りごと解消の答えを引き出す辞典です。運営は OSAKA AI-Center(OAIC)。特定の製品やサービスを売ることはありません。 この辞典についてくわしく →
