中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

複数のツールを入れたら、データがバラバラになった

会計は会計ソフト、顧客は顧客管理、在庫は在庫ソフト。一つずつは「その業務にいちばん合うもの」を選んだ。それなのにデータが食い違うのは、どれかのツールが悪いからではない。本当の欠落は、ツールとツールの「間」——データの受け渡しを、誰も自分の持ち場だと思っていないことのほうにある。

会計は会計ソフト、顧客は顧客管理、在庫は在庫ソフト、給与は給与ソフト。一つずつは、その業務にいちばん合うものを、そのとき丁寧に選んだ。ところが、いざ全体を眺めると、同じ顧客名や同じ数字を、あちらのソフトとこちらのソフトに、二度も三度も手で打ち込んでいる。片方を直しても、もう片方は古いまま。どれが最新なのか分からなくなる——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 受注したデータを、受注ソフトに入れたあと、請求ソフトにもう一度、手で打ち直している。
  • 顧客の住所が変わったとき、顧客管理では直したのに、別のソフトは古い住所のままで、そちらに送ってしまった。
  • 月末に、片方のソフトから数字を書き出して、もう片方のソフトに貼り付ける作業がある。いつのまにか、誰かの担当になっている。
  • 同じ取引先が、ソフトごとに「A商店」「A商店(株)」「エーショウテン」と表記が違っていて、突き合わせるたびに手が止まる。
  • 「どのソフトの数字が正しいのか」を、いちいち確かめないと不安で、そのまま数字を使えない。

一つとして、ソフトが壊れているわけではない。どれも、それぞれの仕事はきちんとこなしている。それなのに、データだけが食い違っていく。

二台の画面に同じ取引先の情報が並び、その一方を見ながら、同じ内容をもう一方へ手で打ち直している様子

たいてい、こう考える

ここで、たいていの会社が最初に取る手は決まっている。

「一つにまとめてしまおう」。全部の業務が一つの中でつながる、大きなシステムに入れ替えれば、二度打ちも食い違いもなくなるはずだ——と。あるいは「ツールの数を減らそう」「最初から連携できるものに買い替えよう」。どれも、向きとしては正しい。

だが、中小企業でこれをやり切るのは、話の桁が違う。入れ替えの費用、データを移す手間、そして現場が新しい画面に慣れ直すまでの負担。今ちゃんと回っている業務を、全部いったん止めてまでやることか——そう考えた瞬間に、話は「いつか、余裕ができたら」の棚に載る。そして棚に載っているあいだも、二度打ちは今日も続く。

だが、本当の問題は「どのツールを選んだか」ではない

データがバラバラになった本当の原因は、ツールの選び方を間違えたことでも、ツールが多すぎることでもない。

会計には会計にいちばん合うものを、在庫には在庫にいちばん合うものを選んだ。一つひとつの選択は、その業務だけを見れば、正しかった。バラバラになったのは、一つずつは正しかった選択が、集まった結果である。誰かがどこかで間違えたのではない。それぞれの持ち場でベストを選び続けた、その積み重ねが、全体としては食い違う状態をつくる。ここが、この問題のいちばん見えにくい核心だ。

だとすれば、問題はツールの中身にはない。問題は、ツールとツールの「間」にある。受注ソフトの出口と、請求ソフトの入り口。その二つのあいだにある、データの受け渡し。ここを、誰も設計していない。

会計ソフトには担当がいる。在庫ソフトにも担当がいる。ところが「会計と在庫の"間"」には、担当がいない。分断が起きているのは、ツールの中ではなく、ツールとツールの"間"——どの担当の持ち場でもない、境界の部分である。誰の受け持ちでもないから、誰も設計しない。設計されていない境界を、人が手で埋めている。その手作業の正体が、二度打ちであり、転記であり、表記のそろわないデータの突き合わせだ。

つまり、ここで起きているのは「ツールが足りない」問題でも「ツールが余っている」問題でもない。ツールとツールの"間"が、誰の持ち場でもない無主地帯になっている、という問題である。

では、どう考えるか

考え方を一つ入れ替える。

「統合」と聞くと、多くの人が「全部を一つにまとめること」だと思う。だが、そうではない。全部を一つにまとめる必要はない。二重入力が実際に起きている、その一か所だけを橋渡しすれば足りる

全部をつなごうとするから、大きなシステムの話になり、費用も手間も跳ね上がる。だが、実際に痛いのは、たいてい特定の一か所だ。「受注から請求へ」だったり、「顧客管理から送付先リストへ」だったり。困りごとの大半は、その一か所の受け渡しに集中している。そこだけに橋をかければ、痛みの大部分は消える。ツールはそのまま、変えなくていい。変えるのは、ツールとツールの「間」だけだ。

では、その橋をどこにかけるか。探し方は難しくない。同じデータを二度以上、手で入力している場所——そこが、誰の持ち場でもない無主地帯であり、橋をかけるべき一点だ。

選び方:道はいくつかある

ツールの「間」をつなぐやり方には、いくつかの道がある。同じ困りごとでも、人数と時間の余裕で、取れる道は変わる。

A案:ツールの"間"の突き合わせ・転記を、AIに任せる

いちばん手前にあるのに、多くの会社がまだ選択肢として知らないのが、この道だ。やってもらうのは、別々のソフトに散らばったデータの、突き合わせ・転記・変換である。

たとえば、受注ソフトから書き出したデータと、請求ソフトが求める入力の形が、そろっていない。列の並び順も、日付の書き方も、金額の桁区切りも違う。だから人が、両方を見比べながら、手で打ち直している。この「形をそろえて、移し替える」作業を、AIに肩代わりさせる。「A商店(株)」と「エーショウテン」が同じ相手らしいと見当をつけて突き合わせる、といった、これまで人が目と勘でやっていた判断も、AIはこなせる。

  • 向く場面:ツールを入れ替えるつもりはないが、その「間」で毎回発生する二度打ち・転記・突き合わせに、人手と時間を取られている会社。
  • 割に合わないこと:AIに任せた突き合わせや変換が、いつも百点とは限らない。だから、最後に人が目を通して確かめる工程は残る。最終判断は人がする、という前提は外せない。また、渡すデータの形をAIに伝わるようにひとそろえ用意する手間は、最初に一度かかる。
  • 始める前に要ること:二度打ちしている一か所を決めること。そこで「どのソフトから、どのソフトへ、何を移しているか」を、一往復ぶん書き出しておくと、任せる範囲がはっきりする。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは特定の製品を入れる話ではなく、「散らばったデータの突き合わせと転記を、人の手からAIに移す」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:ツールが元から持っている連携機能で、一か所だけつなぐ

今あるツールの中に、他のソフトとデータをやり取りする仕組み(データの書き出し・取り込み、あるいはツール同士を自動でつなぐ仕組み)が、すでに備わっていることがある。それを使って、二度打ちしている一か所だけをつなぐ。

  • 向く場面:使っているツールに、もともと連携の機能が付いている会社。
  • 割に合わないこと:つなぎたい二つのツールが、たまたま連携に対応していないと使えない。対応していても、最初の設定に多少の知識が要る。
  • 始める前に要ること:それぞれのツールに、どんな書き出し・取り込みの機能があるかを一度確かめること。

C案:「正しいのはこれ」と決めて、片方向にそろえる

つなぐのが難しければ、せめて「どのソフトの数字を正とするか」を、業務ごとに一つ決める。顧客情報はこのソフトを正とする、と決めて、他のソフトはそこから写す側に回す。

  • 向く場面:自動でつなぐ仕組みまでは持てないが、食い違ったときに「どっちが正しい」で迷う時間をなくしたい会社。
  • 割に合わないこと:二度打ちそのものは無くならない。あくまで「どれが最新か分からない」混乱を止めるための道である。
  • 始める前に要ること:同じデータを持っているソフトを並べ、そのうちどれを正とするかを、決める人どうしで一つに決めておくこと。

上から順に良い、という並べ方ではない。続けられそうなところが、始めどきになる。一度に全部の「間」をつなごうとすると、話が大きくなって止まりやすい。

自分でできる、はじめの一歩

まだ何も買わない段階でも、できることがある。

同じデータを二度以上、手で入力している場所を、一つだけ書き出す。「受注ソフトに入れたあと、請求ソフトにもう一度、同じ内容を打っている」——この一行でいい。この一行が、橋をかけるべき無主地帯の在りかを指している。全部のツールを棚卸しする必要はない。いちばん手間がかかっていて、いちばん打ち間違いが起きやすい一か所が、その入り口になる。

それと、同じデータを複数のソフトが持っている業務については、「どれを正とするか」を一つだけ決めておく。これも無料で、その場で決められる。食い違いに気づいたとき、どちらに合わせればいいかで迷わなくなる。

この一歩でできるのは、「つなぐべき一か所を特定する」「どれが最新かで迷わなくする」までだ。そこから先、実際にどうやって橋をかけるかは、ツールの組み合わせによって手立てが変わる。

それでも、自社の事情が残るときは

「二度打ちしている場所は分かったが、そこをどうつなげるのか見当がつかない」「うちのツールの組み合わせで、連携やAIが使えるのか自社では判断できない」「そもそも、どの数字を正にすべきかから迷う」——こうした問いは、最後まで残りやすい。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこのソフトとこのソフトの間で、同じことを二度打っている。ここをどうにかできないか」——その一か所をどうつなぐか、一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

ちょっと聞いてみる

この辞典について

大阪の中小企業のための、IT・AI活用の困りごと解消の答えを引き出す辞典です。運営は OSAKA AI-Center(OAIC)。特定の製品やサービスを売ることはありません。 この辞典についてくわしく →