中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

予約・問い合わせ・受注が、電話とFAXのまま

電話対応の負荷の正体は"件数"ではなく、"同時に何件も対応させられる"こと。相手の都合とこちらの都合が毎回ぶつかり、手が離せない——減らすべきは電話そのものではなく、相手の時計とこちらの時計が毎回そろわされている状態のほうだ。

作業に集中しかけたところで、電話が鳴る。手を止めて出て、用件を聞き、メモを取り、また作業に戻る。戻った矢先に、次の電話が鳴る。FAXのトレイには、注文書が何枚もたまっている。一件ずつは短い。それなのに、一日が終わるころには、自分の仕事がほとんど進んでいない——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 昼の仕込みの最中に予約の電話が鳴り、手を止めて席数を確かめ、また鍋の前に戻る。これが一日に何度も起きる。
  • 「在庫はありますか」「何時までやってますか」という同じ問い合わせに、日に何度も同じ答えを口で返している。
  • 見積もりの依頼が電話で来る。現場に出ていて出られず、夕方かけ直すと今度は相手が出ない。この往復が何日も続く。
  • 電話に出られなかった数を、誰も数えていない。数えていないので、そこで何を逃したのかも分からないままになる。
  • 受注はFAXで来る。届いた順に対応したいのに、電話の応対に追われて、トレイの紙が後回しになる。
  • 一人が電話に出ている間、もう一本が鳴る。二人いても、二本同時には受けきれない。

どれも、応対が下手だから起きているわけではない。むしろ、来た連絡には誠実に出ようと踏ん張っている。それでも、手が回らない。

作業台で手を動かしている最中に電話が鳴り、片手で受話器を取りながらもう片方の手が止まっている様子。横のトレイにはFAXの注文書が数枚たまっている

たいてい、こう考える

この困りごとに向き合うとき、選ばれやすいのは次のやり方だ。

「電話に出る人を決めよう」「もう一人、応対に回そう」。あるいは「留守番電話にして、あとでかけ直そう」「電話を早く切り上げるようにしよう」。どれも、向きとしては正しい。人を増やせば、確かに少しは楽になる。

だが、しばらくすると気づく。人を一人増やしても、二本同時に鳴れば結局どちらかを待たせる。留守電にすれば、今度は折り返しの電話が積み上がり、相手が出るまでの往復がかえって増える。応対を短くしても、鳴る回数そのものは一件も減っていない。手を打っても、いつまでたっても手が空かない

だが、本当の問題は「電話が多いこと」ではない

電話とFAXの応対が重い本当の理由は、件数が多いからでも、応対が遅いからでもない。

その連絡が、こちらの都合とはおかまいなしに、相手の側の時間で飛び込んでくるからである。しかも、来たその場で応じることを強いられる——ここに、この問題の核心がある。

考えてみれば、電話は「今すぐ、あなたが手を止めて対応してください」という要求である。相手がかけたそのタイミングで、こちらの作業を中断させる。FAXも同じで、届いた紙は「早く見て」とトレイの上で待っている。仕事というものは、本来こちらの段取りで順番に片づけていける。ところが電話とFAXだけは、相手の時計に合わせて、こちらの時間が割り込まれる。負荷の正体は、件数ではなく、こちらの都合に合わせて対応できないことにある。

だから、いくら人を増やしても芯を外し続ける。二人いても、三本同時に鳴れば一本は取りこぼす。問題は「対応する人数」ではなく、「同時に何件も対応させられる状態」そのものにある。人を足すのは、割り込みの数に頭数で追いつこうとする発想であって、割り込みが起きる構造には手が届かない。

そして、この構造は二つの見えない損を生んでいる。一つは、出られなかった電話——つまり取りこぼした客。鳴っても手が離せず出られなかった一本の向こうに、他所へ流れた注文があったかもしれない。もう一つは、折り返しの往復だ。出られない、かけ直す、相手も出ない、また待つ。この行ったり来たりに費やす時間は、どこにも記録されないまま消えていく。取りこぼしも、折り返しの往復も、どこにも記録として残らない

では、どう考えるか

考え方を変える。電話そのものをなくそうとするから行き詰まる。だったら、電話を残したまま、「相手の時計」と「こちらの時計」を切り離す、と発想を切り替える。

連絡への対応は、大きく二つに分けられる。一つは、営業時間や在庫、予約の空き、よくある質問への答えといった、返す中身が決まっているやりとり。もう一つは、細かい相談や込み入った要望のように、その場で人が考えて判断しなければならないやりとり。

これまでは、この二つが一本の電話にまとめて飛び込んできた。決まった答えを返すだけの用件も、判断が要る用件も、同じように手を止めさせる。だから全部が割り込みに見えていた。だが、前者——返す中身が決まっているやりとりは、相手がかけたその瞬間に人が出る必要はない。相手が知りたいことに答えさえすればよく、それが何時であっても、誰が返しても中身は変わらない。

ここに、時間をずらす余地がある。相手はいつでも用件を置いていける。こちらは手が空いたときに、あるいは仕組みが自動で、それに応じる。同じ瞬間に向き合わなくても成り立つ形——これを「非同期」と呼ぶ。相手の連絡とこちらの応対を、同じ時刻に縛りつけるのをやめる。これがこの困りごとの現実解の入口になる。電話は一本も禁止しない。ただ、今すぐ人が出なくてもいい用件を、割り込みの流れから外へ逃がす。

選び方:道はいくつかある

電話とFAXの応対への向き合い方には、いくつかの道がある。手が届く道は、会社ごとに違う。

A案:AIに、一次受けを任せる

いちばん踏み込んだ形が、最初の受け答えをAIに任せる、という道だ。ここでのAIは、答える相手ではなく、手を動かす相手になる。やってもらうのは、お客さんからの連絡を最初に受け止め、決まった答えを返し、人でなければ扱えないものだけを選り分けて回す、という役回りである。

手順にすると、こうなる。予約や問い合わせ、受注の入口として、Webの入力フォームや、電話をかけると応答する自動音声、あるいはチャットの窓口を用意しておく。相手は、営業時間外でも、深夜でも、そこに用件を置いていける。「営業時間は」「駐車場はあるか」「この商品の在庫は」といった、答えの決まった問い合わせには、AIがその場で定型の返事を返す。予約や注文であれば、必要な項目を尋ねて受け付ける。そして、「こういう事情があって相談したい」といった、人が判断しなければ答えられないものだけを、後で人が対応するものとしてまとめておいてくれる。

つまり、これまで人が手を止めて一本ずつ受けていた用件のうち、答えの決まった大半を、AIが割り込ませずに受け止める。相手はいつでも用件を入れられ、こちらは手が空いたときにまとめて対応できる。Webのフォームやチャットの窓口なら、同時に何件来ても受け止められる。電話の自動音声の場合は、同時に何本まで受けられるかが契約する仕組みによって決まるため、そこは前もって確かめる必要が残る。人が向き合うのは、判断の要る一部だけになる。もちろん、最後にお客さんとどう応じるか、込み入った件をどうさばくかを決めるのは、変わらず人である。AIが受け止めるのは、あくまで一次受けと仕分けまでだ。

  • 向く場面:同じ問い合わせが繰り返し来る会社。営業時間外の連絡や、電話に出られない時間帯の取りこぼしが多い会社。予約・受付の件数が読みにくく、波がある会社。
  • 割に合わないこと:万能ではない。相手が人と話したい場面まで無理に自動へ寄せると、かえって不親切になる。とっさの込み入った相談や、感情のこもったやりとりは人が出るべきで、AIに任せる範囲を欲張ると信頼を損なう。どこまでを自動で受け、どこから人へ渡すかの線引きは、最初に決めておく必要がある。
  • 始める前に要ること:よく来る問い合わせと、その答えを、何種類か書き出しておくこと。「これは自動で返してよい」「これは必ず人が出る」という仕分けを、あらかじめ用意しておくと、任せる範囲が定まる。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「一次受けと仕分けをAIに任せ、判断は人が残す」という考え方を指している。どこから始めるかは、会社の状況によって変わる。

B案:入口を、フォームや予約ページに寄せる

AIに返答まで任せなくても、連絡の入口を電話以外にも用意するだけで、割り込みは減らせる。予約や問い合わせを受け付けるWebのページや入力フォームを作り、そこに書いてもらう。よくある質問は、あらかじめページに答えを並べて先回りしておく。届いた内容は、人が手の空いたときに確認して対応する。自動で答えは返らないが、「今すぐ出る」から「あとで見る」に変わるだけでも、時間の縛りは外れる。

  • 向く場面:問い合わせの内容がある程度決まっていて、文字で受けても困らない会社。お客さんがWebやスマホでの連絡に慣れている会社。
  • 割に合わないこと:電話でしか連絡してこない相手には届かない。結局、電話とフォームの二つの入口を並行して見ることになり、しばらくは両方に目を配る手間が残る。
  • 始める前に要ること:どの用件をフォームで受けるか、何を書いてもらうかを決めておくこと。よくある質問とその答えを、ページに載せられる形でそろえておくこと。

C案:電話は残し、出る時間と出ない時間を分ける

入口は電話のままにして、応対の時間帯を区切る。予約や問い合わせを受ける時間を決めて外に伝え、それ以外は留守番電話や時間外の案内で受ける。折り返しは、決まった時間にまとめてかける。割り込みをなくすのではなく、割り込みを受ける時間を一か所に固める道だ。

  • 向く場面:お客さんが電話以外の手段を持たない会社。設備や新しい仕組みに手をかけず、まず運用だけで緩衝を作りたい会社。
  • 割に合わないこと:時間を区切っても、鳴る件数そのものは減らない。留守電にした分、折り返しの往復はむしろ増えることがある。人の運用で回す以上、忙しくなると元の「その都度出る」に戻りやすい。
  • 始める前に要ること:受付の時間帯と、時間外にどう案内するかを決めて、お客さんに伝える手立てを用意しておくこと。

取りこぼしが多くて件数の波が大きいならA案が効きやすく、Webでの連絡に慣れた相手が多ければB案が現実的で、まず運用だけで整えたいならC案が入口になる。組み合わせる形もある。無理のないところが入口になる。

自分でできる、はじめの一歩

今日、手元だけでできることがある。

一週間、かかってきた電話と届いたFAXを、その用件だけ短くメモしてみる。そして一件ごとに、「これは答えが決まっている用件か」「人が考えて判断する用件か」の二つに仕分ける。仕分けてみると、答えの決まった問い合わせがどれだけを占めているかが、数として出る。営業時間、在庫、予約の空き、場所の案内——同じ答えを何度も口で返していたものが、目に見えてくる。

この決まった答えの用件こそが、時間をずらして受けられる部分だ。逆に「判断が要る」に分けたものは、これからも人が出るべきやりとりとして残る。仕分けの割合が見えれば、どの道が自社に合うかの見当がつく。

この一歩でできるのは「割り込みの中身を、正しく知る」までだ。そこから先、どの用件をどの入口に逃がすか、人が出る線をどこに引くか、という具体は残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「うちの問い合わせは決まった答えで返せるものばかりではない」「フォームや自動応答を用意するといっても、何をどう作ればいいのか分からない」「AIに一次受けさせるとして、どこまで任せてどこから人が出ればいいのか、線が引けない」——ここは、たいてい最後まで残る。お客さんとの最初の接点は、対応を誤れば信用に直に響く。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちにはこういう連絡がこれだけ来ていて、どこから手をつけたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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この辞典について

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