最初は、お客さんの名前と電話番号を並べただけの一覧表だった。それがいつの間にか、似た名前のファイルが何本も並び、どれが最新なのか誰も言い切れなくなっている。開くたびに、小さく手が止まる——この辞典が扱うのは、その場面である。
こんな場面に、心当たりはないか
いつの間にか、こうなっている。
- 「最新の顧客リストはどれ?」と聞かれて、「顧客管理_最新.xlsx」と「顧客管理_最新2.xlsx」と「顧客管理_最新(コピー).xlsx」の前で固まる。
- 同じお客さんが二行ある。住所が微妙に違う。どちらが正しいのか、もう誰も分からない。
- 担当者が休んだ日、そのファイルがどこに保存されているのかすら、すぐに出てこない。

「手作業がつらい」という言葉が出るとき、たいていその裏には、こういう小さな引っかかりが毎日積み重なっている。
たいてい、こう考える
こういうとき、選ばれやすいのは次のやり方だ。
「自分たちの使い方が下手なだけだ。もっとちゃんと整理すれば、Excelでもやっていけるはずだ」
だから、ルールを決める。「ファイル名の付け方を統一しよう」「更新したら上書き保存、コピーは作らない」「入力する列の順番を揃えよう」。
この手はよく取られる。ルールを決めた直後は、実際に片づく。
だが、本当の問題は「Excelでの整理の下手さ」ではない
だが、ルールを決めても、しばらくするとまた同じ状態に戻る。なぜか。
本当の問題は、整理が下手なことではなく、Excelが「一人で、一つの作業を、その場で片づける」ための道具だという点にある。
Excelは表計算の道具として優れている。だがそれは、一枚のシートを、一人が、見ながら手で触ることを前提にしている。
顧客管理でつらくなるのは、そこに「複数の人が」「同時に」「ずっと積み重ねて」関わり始めたときだ。共有フォルダに置いたファイルは、誰かが開いている間、他の人は読むだけになる(クラウドに置いて同時に編集できる形もあるが、そこまで整えている会社ばかりではない)。コピーして渡せば、その瞬間に「正しい一つ」が二つに割れる。ファイルを手元で複製していく使い方には、どれが本物かを保証する仕組みが無い。
つまり、ファイルが散らかるのは使う人のせいではない。一人用の道具を、複数人・継続・蓄積の仕事に使っているから、構造として散らかる。ここが本当の原因である。
では、どう考えるか
そうなると、考えるべきは「どう整理するか」ではなくなる。問うべきは、次のことだ。
いまのこの作業は、本当に「一人がその場で片づける」仕事なのか。それとも「みんなで、ずっと、積み上げていく」仕事なのか。
顧客管理は、たいてい後者だ。だとすれば、必要なのは整理術ではなく、「正しい一つ」を全員で共有し続けられる入れ物を持つことだ、という見方になる。
道具を変えるかどうかの前に、まず自社の作業がどちらの性質なのかを見極める。これが判断の出発点になる。
選び方:道はいくつかある
「みんなで積み上げる仕事だ」と分かっても、進み方は一つではない。代表的なものを、横に並べて見てみる。同じ困りごとでも、人数と時間の余裕で、取れる道は変わる。
A案:散らばったExcelをAIに読ませて、「みんなで引ける状態」に寄せる
使い方の入り口としてまず向くのは、これまで皆でやってきたこの顧客管理が、実際どういう作業で、どこに問題があるのかを、主観を交えずに整理してもらうことだ。解決に走る前に、現状の棚卸しをAIに問う、という使い方である。
その上で、道具をそっくり入れ替える前に、いま手元にある複数のExcelを、そのままAIに読ませるという道がある。人が目で見比べて「どれが最新か」「どこが重複か」を探すのは骨が折れるが、そこはAIが肩代わりできる部分だ。
散らばったファイルをAIに渡すと、同じ相手が何行にもなっている重複、住所や社名の表記のゆれ、「どのファイルのどの行が新しいのか」といった食い違いを、一覧にして洗い出せる。その上で、日々の「あの会社の電話番号は」「先月更新したのはどれか」といった問い合わせや書き換えを、表計算の操作ではなく、ふだんの言葉での対話でこなせる状態に近づけられる。「一人が見て触る表」を、「みんなが同じ答えを引ける状態」に寄せていく、という考え方である。
- 向く場面:すでにファイルが何個にも分かれていて、どれが最新か誰も言い切れない。件数が多く、人の目で重複や表記ゆれを直しきれない。
- 割に合わないこと:AIが「重複らしい」「これが新しそう」と挙げたものを、本当にそう統合していいかの最終判断は人がする。渡す前に、ファイルをある程度一か所に集めておく手間は要る。また、渡すのは顧客の個人情報にあたるものなので、社外のサービスに入力してよいか(何のために使うか、そのサービスが入力内容をどう扱うか)を先に確かめる必要がある。
- 始める前に要ること:散らばったファイルを一度集めて、AIに読める形(Excelのまま、あるいは表計算の共有形式)にしておくこと。
※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは特定の製品を入れる話ではなく、「読み比べと洗い出し、言葉での検索・更新をAIに任せる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。最終的にどれを残すか・どう直すかを決めるのは人である。
B案:いまのやり方を工夫して続ける
件数も人数もこの先増えない見通しなら、入れ物を変える手間と費用のほうが上回る。その場合は、ファイル名のルール、共有フォルダでの置き場所、更新担当の一本化などで、Excelのまま続ける。
- 向く場面:扱う件数が少なく、同時に触る人もほぼいない。当面、人も件数も増えない見通し。
- 割に合わないこと:人や件数が増えると、ルールの維持に手間がかかり、いずれまた散らかる。
- 始める前に要ること:「誰が・いつ更新するか」を一つに決めて、全員がそれを守れること。
C案:顧客情報を扱う専用の道具に移す
顧客管理のために作られた仕組み(いわゆる顧客管理システムや、その種のクラウドサービス)に、データを移す。
- 向く場面:複数人が同時に見たい・触りたい。履歴や重複を仕組みで防ぎたい。
- 割に合わないこと:移すための準備(データの整理・入力ルールの決定)に手間がかかる。月々の費用が発生することが多い。
- 始める前に要ること:いまのデータを「重複なく・項目を揃えて」一度きれいにする作業。これを飛ばすと、新しい道具の中で同じ散らかりが再現する。
D案:業務のやり方そのものを見直す
道具を変える前に、「そもそも何を・どこまで記録する必要があるのか」を問い直す。使っていない項目をやめる、二重に持っている情報を一か所に寄せる。
- 向く場面:記録している項目が多すぎて、実は半分も使っていない。複数の表に同じ情報が散っている。
- 割に合わないこと:すぐには楽にならない。考えて決める時間が要る。
- 始める前に要ること:現場の人が「実際に何を見て・何を使っているか」を聞き取ること。
ここに並べたのは製品名ではなく「種類」である。自社の事情に合うものを決めるための材料として置いている。
自分でできる、はじめの一歩
まだ何も買わない段階でも、できることがある。
- 「正しい一つ」を今すぐ決める。 いま散らばっているファイルの中から、最新で正しいものを一つだけ選び、それ以外を別フォルダに退避する。「これが本物」と全員に共有するだけで、迷いが減る。
- 項目を棚卸しする。 表の列を上から見て、「この半年で実際に使った項目」に印をつける。使っていない項目が見えてくると、本当に管理すべき範囲が分かる。
- 重複を一件だけ直してみる。 同じお客さんが二行ある箇所を一つ選び、正しい情報に寄せて一行に直す。全部を直さなくても、どれくらい重複があるかの見当はつく。狙いはそこにある。
ここまでは、誰でも、今日から、無料でできる。
この一歩でできるのは、「どれが本物かを一つ決める」「本当に要る項目と、重複の量を知る」までだ。そこから先、何百件・何千件のデータを重複なく移し替える作業や、どの種類の道具が自社の仕事の流れに合うのかという見極めが残る。
それでも、自社の事情が残るときは
ここまでは、どの会社にも当てはまる一般的な考え方だ。だが実際には、「うちの場合はどうなのか」という個別の事情が必ず残る。件数も、関わる人数も、いま使っている表の中身も、会社ごとに違う。
そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこういう表が並んでいて、どこから手をつけたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。
ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。
うちの場合はどうなのか、という部分は残る。
ちょっと聞いてみるこの辞典について
大阪の中小企業のための、IT・AI活用の困りごと解消の答えを引き出す辞典です。運営は OSAKA AI-Center(OAIC)。特定の製品やサービスを売ることはありません。 この辞典についてくわしく →
