中小企業のIT・AI 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC) 運営:インフォフラッグ株式会社

取引先から電子契約で送られてきたが、うちはまだハンコで、どう応じればよいか分からない

公開日

要点

契約は原則として印が無くても成り立つ。電子に移って変わるのは効力ではなく、誰が会社として同意するかと、控えを自社のどこに残すかの二つ。

  • A案 相手の仕組みに乗り、同意する人と控えの置き場所を決める
  • B案 自社でも電子契約の仕組みを持つ
  • C案 当面は紙で、と相手に頼む

契約は、法律で方式が決まった一部を除けば、印が無くても成り立つ。電子契約を前に迷う点は効力より、印鑑と紙の綴りが黙って受け持っていた二つの役目にある。誰が会社として同意するのか、交わした契約書の控えを自社のどこに残すのか、である。

目次

取引先の担当者からメールが届く。「今回の契約書は電子契約のサービスでお送りします。メールのリンクから内容を確認して、同意をお願いします」。これまで契約書は紙で二部をやり取りし、社長が印を押して一部を送り返してきた。リンクを押すだけで契約になるのか、うちも同じ仕組みを入れることになるのか、紙でと頼んでよいのか。どれも見当がつかないまま、メールが受信箱に残っている——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 取引先から、電子契約で送るという案内と、同意のためのリンクが付いたメールが届いた。
  • 会社の印鑑は社長の机の引き出しにあり、契約書に押すのはいつも社長である。
  • 画面で「同意」を押すことが印を押すのと同じ意味になるのかを、社内の誰も説明できない。
  • リンク付きのメールが届いたのは社長ではなく、その取引先とやり取りしている担当者の受信箱だった。
  • 別の取引先はまた別のサービスで送ってくるので、相手ごとに画面も手順も違う。
  • 去年同意した契約書がいまどこにあるのかを聞かれて、メールを探し始めた。

どれも相手の会社が決めたやり方で始まった話を、自社の側でどう受けるかが決まっていない場面である。

社長の机の上に、朱肉と会社の印鑑、紙の契約書の綴りが置かれている。その横のノートパソコンには、取引先から届いたメールと、内容を確かめて同意するボタンの画面が開いている様子

たいてい、こう考える

この場面で出てくる考えはたいてい二つに分かれる。

一つは「ハンコの無い契約書では、正式な契約にならないのではないか」という受け止め方である。紙の上の印影は目に見えるし、押したかどうかで社長の決裁が済んだかも分かる。会社として約束することと印を押すことが長いあいだ同じ動作だったので、印の無い契約書が頼りなく見えるのはこれまでの経験の延長にある。

もう一つは「相手が電子契約なら、うちも同じ仕組みを入れることになる」という受け止め方である。取引先のやり方に合わせて請求書の書式や受け渡しを変えてきた会社なら、契約も同じように合わせるものに見える。電子契約の仕組みの案内が届くようになると、なおさらそう見えてくる。

二つは向きが違うが、どちらも「電子とハンコ、どちらが正式か」を問うている。そして法律の側が先にこの問いへの答えを書いている。

だが、本当の問題は「電子か、ハンコか」ではない

民法は第522条で、契約は申込みに相手が承諾したときに成立するとし、続けてこう書いている。「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」内閣府・法務省・経済産業省が2020年に出した「押印についてのQ&A」も同じことを押印の側から書いている。「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。」

それでも、ハンコには効き目がある。同じQ&Aによれば、本人が押印した文書は裁判で「真正に成立したもの」と推定され、証明の負担が軽くなる。ただしQ&Aは続けて、「本人による押印があったとしても万全というわけではない」とも書く。認印だと、相手が印影の一致を争ったときに証明する手段が無ければ、この推定が及ぶのは難しい、という説明もある。

電子契約の側にも似た形の説明がある。利用者の指示を受けてサービスの事業者が自分の署名鍵で契約書を仕上げる形の電子契約について、国はQ&Aで、本人確認の仕組みが十分な水準を満たしていれば電子署名法第3条の推定が及び得る、としている。当たるかどうかは個別の事情を踏まえて裁判所が判断することで、本人確認の水準もサービスによって違う。それで同じQ&Aは契約の重要性や金額に照らして、慎重に選ぶように書いている。

こうして並べると、紙とハンコにも電子契約にも、これさえあれば万全という形は無い。押印のQ&Aは押印に代わる証拠の例として、継続して取引している相手なら、メールのアドレス・本文・日時といった送受信の記録を残しておくことを挙げている。どちらの方式でも、後で効いてくるのはやり取りの跡のほうである。

それなら、電子に移るときに変わるのは何か。効力ではなく、印鑑と紙が黙って受け持っていた二つの役目である。

一つは誰が会社として約束するかを決める、決裁の役目である。印鑑は社長の机にあって押せるのは社長だけだったから、印を押す場所がそのまま決める場所になっていた。電子契約だと、同意のボタンはメールを受け取った人の画面に出る。取引先が宛先に入れたのが担当者なら、社長が中身を見る前に、担当者の画面で契約が済む作りになる。

もう一つは控えの役目である。紙なら印を押した一部が返ってきて、自社の綴りに残った。ところが相手のサービスで交わすと、契約書はまず相手のサービスの中に置かれる。それを自社の側にも残すなら、誰かがデータを取り出して置くことになる。

この控えには税の決まりもかかっていて、電子契約で受け取った契約書もメールで届いた請求書と同じく、電子帳簿保存法でいう「電子取引」のデータに当たる。法人税や所得税の書類を保存する義務のある事業者なら、2024年1月以後の取引について、紙に印刷したものだけを保存する方法は認められておらず、データそのものを保存する(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和8年7月版)。保存のしかたの細かいところはこの辞典の別の解説「メールで届いた請求書や領収書を、どう保存すればいいのか分からない」で扱っている。

ハンコで回していたころ、印鑑の置き場所が決裁を、紙の綴りが控えを、誰も意識しないまま受け持っていた。電子契約になると、その二つを自社で決め直すことになる。迷いの元は方式の正しさより、そこが空いたままになっていることにある。

では、どう考えるか

問いを「電子かハンコか」から、「この契約で、誰が同意し、控えをどこに残すか」に置き換える。

その前に一つだけ、方式が法律で決まっている契約かどうかを見ておく。契約は原則として方式が自由だが、例外がある。中小企業が出会いそうなものだと、次のような形になる。

  • 店舗や工場の土地を期限付きで借りる・貸す事業用定期借地は公正証書でしなければならず(借地借家法第23条)、相手の電子契約サービスで交わすだけでは足りない。その公正証書も2025年10月から原則として電子データで作るようになり、希望して公証人が認めればウェブ会議で手続きすることもできる。
  • 取引先の債務を保証するような保証契約は書面でしなければ効力が生じないが、内容を記録した電磁的記録でもよいと民法が定めている(第446条)。更新の無い建物の賃貸借(定期建物賃貸借)も電磁的記録で交わせば書面でしたものとみなされる(借地借家法第38条)。
  • 建設工事の請負契約は相手の承諾を得れば、決められた方法で電子にできる(建設業法第19条)。取引先から電子でと言われた側から見れば、承諾するかどうかを自社で決める形になる。

ここに当たらない契約なら、電子でも紙でも契約は成り立つ。そのうえで、契約の重さで分ける。毎年同じ中身で更新している契約や、継続取引の中の定型の取り決めと、初めての相手との大きな金額の契約とでは、誰が中身を見て同意するか、控えをどこまで丁寧に残すかが変わってくる。国のQ&Aは「契約の重要性や金額」をサービスを選ぶ物差しとして挙げているが、受け取る側が自分の契約に当てて読むこともできる。

重さで分けたら、決めることは二つになる。同意のボタンを押す人と、交わした契約書のデータを置く場所である。この二つが決まってから、相手のサービスに乗るか、自社でも仕組みを持つか、紙で頼むかを選ぶ順になる。

選び方:道はいくつかある

届いた電子契約への応じ方は一通りではなく、契約の数と重さ、自社から契約書を出す機会の多さで、無理のない道が変わる。

A案:相手の仕組みに乗り、同意する人と控えの置き場所を自社で決めておく

取引先が選んだサービスで、案内どおりに内容を確かめて同意する道で、自社で電子契約の仕組みを持たなくても取れる。その代わり、印鑑と紙が受け持っていた二つを社内で先に決めておく。

一つは誰が同意するかで、リンクが担当者に届いたら押さずに社長へ回す、と決めておく形がある。重さで分けて、定型の更新は担当者が押してよく、金額の大きいものと初めての相手のものは社長が中身を見てから、と線を引く形もある。

もう一つは控えの置き場所である。契約が済んだら契約書のデータを取り出して、自社のフォルダに取引先ごとに入れる。取り出し方はサービスによって違うので、最初の一件は相手の担当者に聞くと早い。やり取りのメールも消さずに残しておく。押印のQ&Aが押印に代わる証拠の例に挙げていたのもこの送受信の記録だった。

なお、電子で交わした契約書には印紙税がかからない。文書に課す税なので電磁的記録には課税されない、というのが政府の答弁である(平成17年)。

  • 向く場面:電子契約を求めてくる取引先がまだ一社か二社で、契約の多くが継続取引の更新や定型の取り決めである会社。
  • 割に合わないこと:使うサービスを選ぶのは相手なので、重い契約でも、本人確認の水準が足りるかどうかは相手のサービス次第になる。取引先が増えればサービスごとに画面と取り出し方が違い、控えを置く手間も相手の数だけ増える。データを取り出す一手を誰かが忘れると、その契約の控えは自社のフォルダに入らないままになる。
  • 始める前に要ること:同意してよい人と、社長に回す契約の線引きを一枚に書くこと。契約書のデータを入れるフォルダを一つ決めること。

B案:自社でも電子契約の仕組みを持つ

自社から契約書を出す場面が多いなら、自社でも電子契約のサービスを契約する道がある。送る側に立てば、本人確認の水準も含めて、交わす契約の重さに合うサービスを自社の物差しで選べる。自社から出した契約書は自社の契約したサービスの中にまとまり、控えを一か所で探せる。郵送と押印の往復が無くなるぶん、契約が済むまでの日数も縮みやすい。

  • 向く場面:自社から取引先へ出す契約書が多く、郵送と押印の往復に毎月手間がかかっている会社。重い契約で、本人確認の水準を相手任せにせず自社で決めたい会社。
  • 割に合わないこと:費用が続けてかかる。しかも自社で仕組みを持っても、取引先からの電子契約は相手が選んだ別のサービスで届く。受け取る側の話はそのまま残り、同意する人の線引きと控えの置き場所もこちらで決めることになる。送る相手が紙を望めば、紙の手順も並べて持つことになる。
  • 始める前に要ること:この一年に自社から出した契約書と、相手から受け取った契約書を、だいたいの件数で数えること。出す側の件数が少なければ、費用に見合わないこともある。

C案:当面は紙で、と相手に頼む

方式が決まっていない契約なら紙でも電子でも契約は成り立つので、紙とハンコで交わしたいと取引先に頼むことはできる。全部を紙に戻すのではなく、重さで分けて頼む形もある。定型の更新は相手の電子契約で受け、金額の大きい契約や初めての取り決めだけは紙で印を押して交わしたい、と伝える。社内の決裁と控えのやり方を変えずに済み、社長が印を押す場所がそのまま決める場所であり続ける。

  • 向く場面:契約書を交わす回数が年に数えるほどで、決裁も控えも紙の綴りで回っている会社。重い契約だけは、社長が紙で中身を見てから決めたい会社。
  • 割に合わないこと:頼んだ分の手間は相手の側にかかる。電子契約を社内の標準にした相手にとって紙は例外の手続きになり、受けてもらえるか、どのくらい日数がかかるかは相手次第である。建設工事の請負のように電子にするには相手の承諾が要る契約なら、断る側に回ることは法律の上でも想定されている。それ以外の契約では、頼んで受けてもらう形になる。また、契約書を紙にしても、同じ相手からメールで届く見積書や注文書のデータはデータのまま保存することになる。
  • 始める前に要ること:紙で交わしたい契約と、電子で受けてよい契約の線を先に決めておくこと。線が無いまま頼むと、相手からは毎回の例外に見える。

三つは一社の中で並べて使える。同じ取引先でも、定型の更新はA案で受け、重い契約だけC案で頼む形がある。自社から出す契約が増えてくれば、B案が候補に入る。どの道を取っても、同意する人と控えの置き場所を決めることは残る。

自分でできる、はじめの一歩

届いているメール一通で、今日のうちに確かめられることがある。

契約書の題名と中身を見ながら、紙に三行書く。

  • この契約は土地の期限付きの貸し借り・保証・建設工事の請負・更新の無い建物の賃貸借のどれかに当たるか。
  • 同意のボタンを押すのは誰か。その人は契約書の中身を読んでいるか。
  • 同意したあと、契約書のデータを自社のどこに入れるか。

三行目が書けなければ、取引先の担当者に一つだけ聞く。「同意したあと、契約書のデータはどうやって受け取れますか」。あわせて、メールの送り主がいつもやり取りしている担当者かどうかも見ておく。見覚えの無い名前やアドレスなら、リンクを押す前に、その担当者に電話で確かめる。

この一歩で分かるのは届いた一通をどう受けるかまでで、その先に、ほかの取引先から届く分も含めた判断が残る。同意の線をどこに引くか、相手の仕組みに乗り続けるか、紙で頼むか、自社でも持つか、である。

それでも、自社の事情が残るときは

「取引先ごとに別のサービスで届き、どこに何の契約があるのか追いきれない」「担当者が同意した契約を、あとから社長が知った」「紙でと頼みたいが、長い付き合いの相手には言い出しにくい」——どの取引先とどんな契約を交わしているかは会社ごとに違い、答えもそれぞれに変わる。なお、契約の中身そのものの判断は弁護士の領分にあたる。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちには、こういう形で電子契約が届いていて、誰が同意し、どこに残すかをどう決めたものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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出典

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