中小企業IT利活用 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC)が運営する民間の取り組み

昔作ったシステムが今も動いているが、直せる人がもういない

十数年前に作った販売管理や受発注の社内システムで困るのは、古さそのものではない。何を受け取り、何を出しているかを説明できる記録がどこにも無く、入れ替えるか使い続けるかを決める材料が手元に無いことだ。国の定義も、年数ではなく、仕様が明確で直し続けられるかで線を引いている。

受注を打ち込めば納品書が出て、月末には請求書がまとまる。十数年前に作った販売管理の仕組みは、今朝も変わらず動いている。ところが、取引先から帳票の様式を変えてほしいと頼まれ、作った会社に連絡すると、当時の担当者はもういないと言われる。入れ替えを考えて見積もりを頼めば、「今のシステムでやっていることを、すべて教えてください」と聞き返され、そこで話が止まる——この辞典が扱うのは、その場面である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • 毎日使っているのに、画面の裏で何が計算されているのかを説明できる人が社内にいない。
  • 作った会社からは「その仕組みには、もう手を入れられない」と言われた。どこに頼めば直せるのかが分からない。
  • 税率や取引先の締め日が変わるたびに、システムの外の表計算や手書きで数字を直している。なぜその直し方になったのかは、誰も覚えていない。
  • 入れ替えの見積もりを頼もうとしたら、「今と同じことができる条件」を出すよう言われ、何を書けばよいのか分からなかった。
  • サーバーが古いとは聞いている。それが止まったら、どの仕事が止まるのかは、止まってみるまで分からない。
  • 社内では「まだ動くのだから」という声と、「いつ止まるか分からない」という声が、どちらももっともに聞こえる。

並んでいるのは、どれもシステムが止まった話ではない。止まっていないのに、次の一手を選ぶ手がかりが見当たらない話である。

事務所の奥の棚に置かれた年季の入ったサーバー機と、その手前の机に広げられた納品書・請求書の束。束の横には、何も書かれていない白いノートが一冊置かれている様子

たいてい、こう考える

この場面で出てくる考え方は、たいてい二つに分かれる。

一つは「古くなったのだから、新しいものに替える」。入れ替えの見積もりを取り、条件には「今と同じことができること」と書く。業務を止めずに移るには、それがいちばん確実に見える。

もう一つは「動いているうちは、触らない」。2018年に国が「2025年の崖」と名づけて、複雑になり中身の見えなくなった企業のシステムが足かせになると警鐘を鳴らして以来、古いシステムは危ないという話は何度も耳にしてきた。その2025年はもう過ぎ、それでも手元のシステムは止まっていない。止まったときに考える、という判断にも一応の筋は通る。実際、経済産業省が2025年5月にまとめた報告でも、企業がシステムの刷新を決めたきっかけとして上位に並んだのは、保守を担う人の確保ができない、保守料が上がった、障害がたびたび起きる、といった、困りごとが表に出てからの事情だった(大企業を含む調査)。

だが、この二つは正反対に見えて、同じ物差しを使っている。システムが古いか、まだ動くかという物差しである。替えるにしても使い続けるにしても、判断の軸は年数と、止まっているかどうかに置かれている。

だが、本当の問題は「システムが古いこと」ではない

経済産業省の2025年5月の報告は、問題のあるシステム(レガシーシステム)を定義している。その中身は、作られてからの年数ではない。保守や機能の手直しが難しい状態に陥り、経営の足かせや高い費用の原因になっているシステム、とされている。要因として並ぶのは、仕様や設計の書類が整っていないこと、保守が特定の人に頼った状態になっていること、障害が起きたときに原因をすぐ突き止められないこと、などである。

同じページには、こうも書かれている。古い技術や作り方で構築されたシステムであっても、仕様が明確で、手直しを続けていける作りであれば、レガシーシステムではないと言える。反対に、新しい技術に移したあとでも、保守に問題があれば、再びレガシーになりうる。

つまり、国の定義は「古いかどうか」で線を引いていない。何をしているかが明らかで、直し続けられるかどうかで線を引いている。十数年前のシステムが今も動いていること自体は、この意味では欠点ではない。困りごとの正体は、それが何を受け取り、何を計算し、何を出しているのかを、作った側も使う側も説明できないことのほうにある。

説明できる人がいた頃は、記録が無くても困らなかった。聞けば答えが返ってきたからである。記録が無いことが表に出るのは、その人に聞けなくなったときであり、それはたいてい、手直しか入れ替えが必要になった時期と重なる。

そして、ここで二つの考え方が同じ壁に当たる。入れ替えの条件に書く「今と同じこと」とは、具体的に何なのか。情報処理推進機構(IPA)が2018年にまとめた資料は、長く運用してきたシステムでは、「何が」「どうなれば」今と同じになるのか正解が分からない、と指摘したうえで、変えるより変えないほうが、費用や時間がかかる場合があると書いている。中身を説明できないまま「今と同じに」と頼めば、見積もる側も、分からない部分を見込んで積むしかない。使い続ける側も事情は同じで、直し続けられる状態かどうかを確かめるには、何をしているかの記録が要る。

入れ替えるか使い続けるかは二択に見えるが、どちらを選ぶにも同じ材料が要る。その材料が手元に無いことが、この場面で判断が止まるいちばんの理由である。

では、どう考えるか

判断の前に、材料をつくる。ただし、システムの中身をすべて解き明かす必要はない。

見るのは、システムの入口と出口である。何を入れると(受注、入荷、単価の変更、締めの操作)、何が出てくるか(納品書、請求書、月ごとの集計、会計の仕組みに渡しているデータ)。画面の裏で何が起きているかは分からなくても、入口と出口は、毎日使っている人の目の前にある。その対応を一つずつ書き出していくと、このシステムが業務の中で引き受けている仕事の輪郭が見えてくる。

この一覧は、どの道を選ぶにも効く。入れ替えるなら、「今と同じに」ではなく「この出口が要る」という形で、既製の仕組みと突き合わせられる。使い続けるなら、それが「仕様が明確」という条件に向けた最初の一枚になる。さらに、書き出す途中で、誰も見ていない帳票や、今は使っていない機能が見つかることがある。IPAの手引書(2021年)も、仕様を十分に戻せない部分については、それが本当に必要な部分かを判断し、廃棄も合わせて検討するとしている。持ち越す必要のないものが分かれば、どちらの道を取るにしても、抱える範囲が小さくなる。

古いかどうかを決める前に、何をしているかを書く。判断はその後になる。

選び方:道はいくつかある

道は、大きく三つある。今の仕組みを書き起こしてから決めるか、書き起こさずに既製の仕組みへ寄せるか、残したうえで直し続けられる形に戻すか。

A案:画面と帳票をAIに読ませて、入口と出口を書き起こす

今のシステムが何をしているかを書き起こそうにも、説明できる人がいないから困っているのであって、説明を書ける人もまた社内にいない。だが、システムが毎日出しているものは手元に残っている。それを材料にして、書き起こしの下書きをAIにつくらせる、という道がある。

集める材料は、たいてい社内にすでにある。

  • 入力に使っている画面の写し(受注、入荷、取引先の登録、締めの操作など、主な画面を一枚ずつ)
  • そこから出てくる帳票の実物(納品書、請求書、月ごとの集計表など。数字が入ったもの)
  • 会計など他の仕組みに渡しているデータがあれば、その見本
  • 残っている資料の断片(導入時の提案書や見積書、操作の説明書、手直しを頼んだときのやりとり)

これらをAIに読ませ、頼むことは三つに絞る。一つ目は、画面のどの欄が、どの帳票のどこに出ているかを対応表にすること。二つ目は、入力した値がそのまま出ているのではなく、計算されているらしい箇所(合計、税、値引き、締め日による区切りなど)を拾い出し、入力からどう導かれているかの見当を書くこと。三つ目は、資料に書かれていることと、画面や帳票の実物とが食い違っている箇所を挙げること。

できあがるのは、対応表と、材料からは分からなかった箇所の一覧である。値打ちがあるのは、むしろ後者のほうだ。分からない箇所が並べば、それがそのまま、実際に業務をしている人に確かめる問いの一覧になる。「この取引先だけ締めが違うのはなぜか」「この欄は何のためにあるのか」——漠然と「仕組みを説明してほしい」と頼まれるより、問いが具体的なほうが、答える側も記憶をたどりやすい。

  • 向く場面:画面と帳票は毎日誰かが見ているが、仕組みを説明できる人も資料も残っていない会社。入れ替えるか使い続けるかを決める前に、判断の材料を手元に置きたい場合。
  • 割に合わないこと:画面と帳票から読み取れるのは、外から見える入口と出口の対応までである。画面に出てこない条件分け——取引先ごとの単価の決まりや端数の扱い——は、帳票の数字から見当がつくことはあっても、確かめられたことにはならない。さらに、なぜその処理が要るのかという業務の理由は、システムの側からは出てこない。IPAの手引書(2021年)は、プログラムを解析しても「処理」の仕様は戻せるが、なぜその処理が必要かという「業務」の仕様は戻せない、と書いている。これはプログラムの解析について書かれたもので、AIを前提にした記述ではない。ただ、画面と帳票から書き起こす場合も、理由が外に写っていないという事情は変わらない。その部分は、同じ手引書が書くとおり、実際に業務をしている人から補うことになる。加えて、帳票には取引先名や単価、顧客の情報が載っている。そのまま渡す前に、名前を伏せる、入力した内容がAIの学習に使われない設定や契約になっているかを確かめる、といった手当てが要る(個人情報をAIに入力することについては、個人情報保護委員会が2023年に注意を呼びかけている)。
  • 始める前に要ること:主な画面の写しと、数字の入った帳票の実物を、ひととおり一部ずつ集めること。それから、できた下書きを読んで「ここは違う」「これはもう使っていない」と言える人に、一度まとめて目を通してもらう時間を取ること。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは特定の製品の話ではなく、「残っている画面や帳票を材料に、書き起こしの下書きをつくらせる」という使い方を指している。画像や文書を読み込めるかどうかも、サービスや契約によって違う。

B案:今の仕組みは解き明かさず、既製の仕組みの標準に業務を寄せる

今のシステムの中身をすべて書き起こすことはせず、出発点を既製の仕組み(パッケージや、クラウドで使うサービス)の側に置く道。既製の仕組みが標準で持っている流れと帳票を物差しにして、それで足りない部分だけを自社の条件として拾い出す。経済産業省の2025年5月の報告は、今の機能をそのまま保証することへのこだわりは捨て、あるべき業務の姿から検討することを大原則とし、中堅・中小企業はオーダーメイドで作ることを避け、パッケージやSaaS(クラウドで使うサービス)を原則とすべきと書いている。

  • 向く場面:販売管理や受発注の流れが、業界の一般的なやり方から大きく外れていない会社。今の仕組みの足りないところを手作業で補っている部分が多く、そのやり方ごと見直したい場合。
  • 割に合わないこと:今と同じ動きにはならない。業務の側を既製の仕組みに合わせる部分が必ず出る。合わない箇所を作り込みで埋めはじめると、新しい仕組みの中にまた「説明できない作り込み」が育つ。同じ報告は、今のシステムに手を加えている企業ほど、移行先でも手を加える割合が高いという調査結果を載せている。もう一つ、今のシステムに溜まっているデータを移す作業は、移行の中でも問題が起きやすいところとして挙げられている。
  • 始める前に要ること:既製の仕組みの標準では出せない帳票が見つかったとき、それを手放せるのか、取引先の都合で手放せないのかを、決める立場の人が決めておくこと。ここが決まらないと、比べる軸が「今と同じか」に戻る。

C案:使い続ける前提で、直し続けられる状態に戻す

今のシステムを残す道。ただし、公的な資料の中に「古いシステムを使い続けてよい」と書いたものは見当たらない。使い続ける根拠になるのは、先の定義の裏返し——仕様が明確で、手直しを続けていける作りであればレガシーではない——である。言い換えれば、使い続けるには、その条件を満たす状態に戻すことが要る。中身の記録をつくり、手を入れられる相手を確保しておく、という形になる。

  • 向く場面:業務のやり方が独自で、既製の仕組みでは要る帳票や計算が出せない。しかも今のシステムがその業務によく合っていて、替えると現場の仕事のほうが崩れる会社。
  • 割に合わないこと:記録をつくっても、手を入れられる相手が見つからなければ、条件を満たしたことにはならない。また、システムは土台(サーバーのOSなど)の上で動いている。IPAは、OSのサポートが終わると、その上で動くソフトのサポートも終わることが考えられる、と注意を呼びかけている。土台の期限が来れば、使い続けるという判断そのものを見直すことになる。費用が小さく見えても、期限つきの選択になりやすい。
  • 始める前に要ること:土台の期限を確かめること。サーバーのOSなどの期限は、それぞれを作った会社が公表している。あわせて、今のシステムに手を入れられる相手が、今どこにいるのかを確かめておくこと。

どの道を取るにしても、決める場面で問われるのは「このシステムが何を出しているか」であり、作られてからの年数ではない。

自分でできる、はじめの一歩

費用をかけずに、今週のうちにできることがある。

このシステムから出てくる紙を、一か月分、種類ごとに一部ずつ机に並べる。納品書、請求書、月ごとの集計、取引先に送っている一覧。データで渡しているものも、印刷して並べる。そのうえで一枚ずつ、誰が見ているか、無くなったら誰が困るかを付箋に書いて貼る。

誰の名前も書けない紙が出てきたら、それは持ち越さなくてよい候補になる。反対に、取引先の名前が書ける紙は、どの道を選んでも外せない出口である。

もう一つ。並べた紙の数字を、システムの外で直している箇所があれば、そこにも印をつける。手書きで足している欄、表計算に写してから直している合計。システムの外で補っている手間は、仕組みと業務がどこかでずれた跡であり、入れ替える場合も使い続ける場合も、確かめておくべき箇所になる。

この一歩でできるのは、このシステムが外に出しているものを、机の上で見える形にするところまでだ。どれを残し、どの道を選ぶかという判断は、そこから先に残る。

それでも、自社の事情が残るときは

「並べてはみたが、どの帳票が何から計算されているのか、自分たちでは読み解けない」「作った会社とも連絡がつかず、資料らしいものが何も残っていない」「入れ替えの見積もりが届いたが、今の仕組みと比べる手がかりが無い」——ここから先で止まる会社もある。長く問題なく動いてきたシステムほど、中身を確かめる機会が一度も来なかったためである。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「このシステムが何をしているのか、どこから書き出したものか」——その整理を一緒に考えるところまでが、この辞典の役割である。

ITは、本来は専門家の領分でもある。弁護士や税理士のように、ITと経営の両方を知る第三者を"ブレイン"として側に置く——という考え方もある。何もかも自社だけで抱え込まなくていい。この辞典も、そうした相手と一緒に読めば、自社に合った次の一手につながりやすい。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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