中小企業のIT・AI 困りごと辞典OSAKA AI-Center(OAIC) 運営:インフォフラッグ株式会社

ITのことになると、若手とベテランの差が埋まらない

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要点

操作が分かることと、この仕事に何が要るかが分かることは別の分かり方。「ITに強い」が片方だけを指すと、仕事をいちばん知る人が道具を決める場から降りる。

  • A案 AIにITの言葉と仕事の言葉の通訳をさせる
  • B案 決めごとを操作と仕事に仕分け、仕事の話は仕事の席へ持っていく
  • C案 教える中身を「なぜこの入力が要るか」に替える

年配の社員はITが苦手で若い社員は得意、という見方は、社内を一本の物差しで並べている。操作が速いことと、この仕事に何が要るかが分かることは別の分かり方で、別々の人が持っていることが珍しくない。片方だけを「ITに強い」と呼ぶと、仕事をいちばん知る人が、道具を選ぶ場から降りていく。

目次

パソコンやスマートフォンの話になると、社内がきれいに二つに分かれる。新しい画面をすぐ触れる人と、「自分はそういうのは分からんから」と言う人。前者にはたいてい若い社員が、後者には長くその仕事をしてきた社員が数えられている。何か入れるたびに同じ分かれ方をし、何年たっても線の位置が動かない——この辞典が扱うのは、その線の引かれ方である。

こんな場面に、心当たりはないか

  • パソコンのことで困りごとが出ると、社内でいちばん若い人に声がかかる。その人の本来の担当は、営業や事務である。
  • 新しい道具を入れる話が出ると、業者との打ち合わせには「分かる人が出たほうが早い」と、その若い人が出る。
  • その仕事を二十年続けてきた人は、「パソコンのことは分からんから、任せるわ」と言って、打ち合わせには入らない。
  • 打ち合わせの席で「この項目は必ず入力させますか」「締め日はいつにしますか」と聞かれ、出席した人がその場で答えを決める。
  • 動かし始めてから、「この客先だけは締め日が違う」「この品物は箱でも個でも数える」といったことが、一つずつ出てくる。
  • 「うちは年配が多いから」という一言で、その話が終わる。

差があることは、社内の誰もが知っている。ただ、その差が何の差なのかは、確かめられないまま「強い人」と「弱い人」という呼び方だけが残っている。

業者との打ち合わせの机で、若い社員が一人、設定項目の並んだ画面と資料を前にペンを止めている。隣の椅子は一つ空いている。部屋の奥では、長く勤める社員が伝票の束を手元に置いて、客先と電話で話している

たいてい、こう考える

この線に気づいたとき、取られる向きは大きく二つある。

一つは、弱い側を引き上げる向きだ。使い方の研修を組む。若い社員に教える役を頼む。操作の少ない、やさしい道具に替える。東京商工会議所が2026年に、主に東京23区の中小企業に聞いた調査では、デジタル化の課題として「従業員がITを使いこなせない」を挙げた会社が26.5%あり、「コストが負担できない」に次いで多かった。経営する側から見て、これが上位の悩みであることは数字にも出ている。

もう一つは、待つ向きだ。「いまの若い世代が中心になれば、自然に片づく」。無理に教えるより、時間に任せる。

どちらも筋は通っている。ただ、二つとも同じ前提に立っている。社内の人は「ITが分かる」という一本の線の上に並んでいて、違うのはその線の上の位置だけだ、という前提である。先の調査の数字も、聞いているのは「使いこなせない」という一括りまでで、誰が何を分からないのかは、その中に入っていない。

だが、本当の問題は「ITに弱い人がいること」ではない

まず、年代で差があるかどうか。これは、あるとも無いとも言い切れない。見る道具によって数字が変わるからだ。

総務省の令和7年通信利用動向調査(2026年5月公表)では、インターネットを使う人の割合は13歳から69歳までのどの年代でも9割を超えている。パソコンでインターネットを使う人は、20代で58.8%、60代で50.7%。開きは8ポイントほどである。これは暮らしの中での利用の数字で、職場の道具を使えるかどうかを測ったものではない。それでも、「年配の人はそもそもITを使わない世代だ」という前提とは合わない。

一方で、同じ総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIを「使っている(過去使ったことがある)」人は、20代で78.2%、60代で33.5%。こちらは2倍以上の開きがある。

二つを並べると、差の形が見える。差は、使える人と使えない人という固定した区分として在るのではない。何に慣れているかの差として現れ、新しい道具が出るたびに開き直す。だから、世代が入れ替わるのを待っても、線は消えない。次の道具で、別の位置に引き直されるだけである。

ここまでは、差の大きさの話だ。本題は、その差を何で測っているか、のほうにある。

「ITが分かる」と言うとき、中身は少なくとも二つある。

一つは、操作が分かること。どこを押せば何が起きるか。初めて見る画面でも、触りながら見当をつけられるか。

もう一つは、この仕事に何が要るかが分かること。どの客先に例外があるか。どの数字を見て、何を判断しているか。どの手順を省くと、あとで誰が困るか。

この二つは別の分かり方で、身につく道筋も違う。前者は新しい画面に触れた回数で、後者はその仕事を続けた年数で積み上がる。だから、一人の中に両方そろっているとは限らず、別々の人が持っていることが珍しくない。その仕事に就いて日の浅い人は、後者をまだ積んでいる途中にいる。長く続けてきた人は、新しい画面に触れる回数が少なかった。どちらも、何かが欠けているのではない。積んできた場所が違う。

ところが社内で「ITに強い」と呼ばれるのは、前者だけである。すると後者を持つ人は、同じ線の「弱い側」に置かれる。そして、置かれた本人もそう名乗るようになる。「分からんから、任せるわ」は、怠けでも遠慮でもない。その線の上で自分に割り当てられた位置に、筋を通して従っている。呼び名は、付けた側の見方だけでなく、付けられた側の動き方も決める。

降りた先で何が起きるか。

道具を選ぶとき、設定を決めるときに聞かれるのは、「どの項目を必ず入力させるか」「締め日はいつか」「数える単位は何か」「誰が承認するか」といったことだ。画面の上ではITの設定に見える。だが中身は、その会社の仕事の決まりを、一つずつ確定させる問いである。答えるのに要るのは、操作の知識ではなく、仕事の知識のほうだ。

その知識を持つ人が、場にいない。席にいるのは、操作の分かる人である。その人は、聞かれたことに、目の前の画面と自分の知っている範囲で、筋の通った答えを返す。客先ごとの例外や、紙の時代から続く段取りの理由は、まだ知りようがない。知らないことを、知らないまま決める役を負わされている。本人の落ち度ではない。

こうして、仕事をいちばん知っている人の知識が、道具の中に入らないまま動き始める。例外は、動かした後に一つずつ出てくる。そのたびに、「やはり現場は使ってくれない」「若い人は現場が分かっていない」という、人の話に戻る。線はもう一段、濃くなる。

道具を入れると決めるのは、経営者である。「詳しい人に任せる」という判断は、そのときはいちばん話が早く進む、合理的な選び方に見える。業者と言葉が通じる人が出れば、打ち合わせは一度で済む。その判断が、道具を入れるたびに同じ向きで重なっていく。

まとめると、こうなる。差を固定しているのは、誰かの能力ではなく、「ITに強い/弱い」という物差しが一本しか無いことである。一本の物差しは、二種類の分かり方のうち片方だけを測り、もう片方を持つ人を、決める場の外に出す。

では、どう考えるか

「誰がITに強いか」という問いを、いったん脇に置く。代わりに、決めごとの一つひとつについて、こう問う。

この決めごとは、操作の話か、仕事の話か。

画面の配色や、ボタンの位置、通知の出し方は、操作の話である。締め日、単位、必須の項目、承認の順は、仕事の話である。後者は、その仕事を知っている人が答える問いになる。

ただし、「これからは打ち合わせに出てもらう」と決めるだけでは、続きにくい。ITの言葉が飛び交う席に座ることを求めるのは、降りた理由をそのままにして、場所だけ戻すことになるからだ。向きを逆にする。人をITの場に連れてくるのではなく、問いを仕事の言葉に直して、仕事をしている人のところへ運ぶ。

そうすると、操作の分かる人の役も変わる。一人で決める役から、問いを運び、答えを画面に写す役になる。知りようのないことを決めさせられる負担が、そこで外れる。

選び方:道はいくつかある

問いを仕事の言葉に直して運ぶ、という考え方には、取り方がいくつかある。どれが合うかは、言い換える役を社内の誰が担えるか、で変わる。

A案:AIに、ITの言葉と仕事の言葉のあいだの通訳をさせる

仕事を知っている人が降りていたのは、問いがITの言葉で出てくるからだった。その言い換えを、AIに持たせる道がある。任せるのは、業者の資料や設定画面の言葉を、仕事の言葉の問いに直す作業である。

進め方はこうなる。業者からもらった設定項目の一覧や、見積書、画面に出ている項目名を、AIに渡す。そのうえで、「この中から、仕事のやり方を決めることになる項目を抜き出してほしい。それぞれを、パソコンに詳しくない人が、自分の仕事の言葉で答えられる問いに直してほしい。仕事の話ではなく、操作や機械の話にあたる項目は、そう分けて書いてほしい」と頼む。返ってくるのは、たとえばこういう形になる。

  • 「『締め処理』の項目があります。いまは月末に一度、全部の客先を締めていますか。締め日が違う客先はありますか」
  • 「『単位』を品物ごとに一つ選ぶ項目があります。箱で仕入れて個で売る、というように、数え方が二つある品物はありますか」
  • 「『承認者』を決める項目があります。その人が休みの日は、いま誰が代わりに確認していますか」
  • 「『バックアップの間隔』『画面の表示件数』は、仕事の決まりではなく、機械の動かし方の項目です」

この一覧があれば、問いは打ち合わせの席でなく、仕事をしている机の横で聞ける。答えるのに、画面を見る必要もない。

逆の向きにも使える。仕事を知っている人が口で言ったこと——「あそこは月に二回締めてる」「この品物だけは先に仮の伝票を切る」——を書き留めてAIに渡し、「これは設定のどの項目に関わりそうか。業者に確かめておくべきことは何か」と頼む。仕事の言葉が、業者に持っていける問いに変わる。

ただし、AIを置けば差が縮む、とは言えない。先に挙げた数字のうち、年代の開きがいちばん大きかったのは、生成AIそのものだった(20代78.2%、60代33.5%)。同じ東京商工会議所の2026年の調査では、生成AIの使い方を「個人レベルで活用」と答えた会社が40.3%ある(口頭や帳簿が中心と答えた会社を除く959社の回答)。会社として使うのでなく、使う人だけが使っている。置いただけなら、AIは三本目の線になる。

だからこの案は、「全員がAIを使う」形を前提にしない。AIに打ち込むのは、慣れている人でよい。言い換えられた問いに答えるのが、仕事を知っている人である。一つの決めごとに、二種類の分かり方が両方入る形をつくる、という使い方になる。

  • 向く場面:これから道具を入れる、または設定を見直す予定があり、業者の資料や設定項目の一覧が手元にある会社。操作の分かる人と仕事を知る人が、はっきり別の人になっている会社。
  • 割に合わないこと:生成AIは、年代による利用の開きがいちばん大きい道具であり、渡しただけでは使う人しか使わない。AIの言い換えは、その製品の実際の作りと食い違うことがあり、項目の意味は業者に確かめる必要が残る。見積書や設定資料に客先の名前や金額が入っている場合は、外のAIサービスに渡す前に、入力した内容が学習に使われないかを、そのサービスの規約で確かめておくことになる。問いが仕事の言葉になっても、答える人の時間は要る。
  • 始める前に要ること:業者に、設定で決める項目の一覧を、紙か文書でもらっておくこと。打ち合わせの席で口頭で聞かれて答える形のままだと、言い換える材料が残らない。

※AIにはいろいろな種類・サービスがある。ここでは「特定の製品を入れる」話ではなく、「ITの言葉と仕事の言葉のあいだの言い換えをAIに担わせる」という考え方を指している。どれが合うかは、会社の状況によって変わる。

B案:決めごとを二つに仕分けて、仕事の話は、仕事をしている席へ持っていく

同じ考え方を、AIを使わずに取る道である。業者から出てきた決めごとを、操作の話と仕事の話に仕分ける。仕事の話にあたるものは一枚の紙にまとめ、その仕事をしている人の席へ持っていって、伝票や台帳の実物を前にして聞く。

「打ち合わせに出てもらう」と違うのは、場所と言葉である。打ち合わせの席では、問いは業者の言葉で、業者の順番で出てくる。自分の席で、いつも使っている伝票を前にして聞かれれば、同じ問いが「この欄、書かないことはありますか」という仕事の話になる。答える側は、ITの場に入る必要がない。聞く側も、一人で決めなくて済む。仕分けてみると、操作の話として若い社員に任せてよいものと、任せてはいけなかったものの境目が、はじめて見えるようになる。

  • 向く場面:決める項目の数が、紙一枚に収まる程度の道具。操作も仕事も、ある程度まで両方分かる人が社内に一人はいる会社。
  • 割に合わないこと:仕分けと言い換えを、人がやることになる。それができるのは両方をある程度分かる人で、その人の手間が増える。聞いて回るぶん、業者の示す日程より決まるのが遅くなる。道具を入れるたびに誰かが思い出してやる形なので、忙しい時期に重なると飛ばされやすい。
  • 始める前に要ること:決めごとの一つずつについて、「これを決めると、誰の、どの作業が変わるか」を一行で書いてみること。書けない項目は、仕事の話か操作の話かが、まだ分かっていない項目である。

C案:教える中身を、操作の手順から「なぜこの入力が要るか」に替える

研修で差を縮める道を、中身を替えて取る。ボタンの位置や手順を教える時間を減らし、「この入力は、次に誰が、何に使うのか」「ここを空欄にすると、あとでどの作業が止まるのか」を先に伝える。

手順は、使わない期間が空くと抜けやすい。入力の理由のほうは、仕事の流れと結びついているぶん、残りやすい。そして理由を説明できるのは、たいてい、その仕事を長くやってきた側である。教える役を、操作の分かる人ひとりに負わせるのではなく、理由は仕事を知る人が話し、押す場所は操作の分かる人が話す。教わる側と教える側が、年代で固定されなくなる。

  • 向く場面:教える時間を、業務として確保できる会社。全員が毎日使う道具が一つ二つに絞られていて、教える範囲がはっきりしている会社。
  • 割に合わないこと:教える人と時間が要る。厚生労働省の令和7年度の能力開発基本調査では、人材育成に何らかの問題があるとした事業所は80.1%あり、その内訳では「指導する人材が不足している」が59.5%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%だった。理由から教える形は、教える側に仕事と道具の両方の理解を求めるので、手順だけを教えるより準備が重い。効いたかどうかが、すぐには目に見えない。
  • 始める前に要ること:対象を、一つの道具の、一つの作業に絞ること。その作業について、「この入力が次にどこで使われるか」を、教える側が先に言葉にしておくこと。

三つは、順番に進む道ではなく、並べて選ぶ道である。共通しているのは、「強い人」を増やそうとしていない点だ。どれも、二種類の分かり方を、一つの決めごとの中で出会わせる形になっている。

自分でできる、はじめの一歩

人ではなく、決めごとのほうを一つ見る。費用はかからない。

いちばん最近入れた道具、または、いま入れようとしている道具を一つ選ぶ。その道具について、入れるときに決めたことを三つ思い出す。どの項目を必ず入力することにしたか。締めや集計の区切りをいつにしたか。誰が確認することにしたか。

三つそれぞれに、二つのことを書き添える。その決めごとを、誰が決めたか。その仕事をいちばん長くやっている人は、その決めごとを知っているか。

「決めたのは打ち合わせに出た人で、長くやっている人は聞いていない」が並ぶなら、その道具には、仕事の知識が入る前に確定した箇所がある、ということになる。「長くやっている人が決めた」が並ぶなら、少なくともその道具では、線は別のところにある。

ここで見えるのは、一つの道具について、どの決めごとが誰の知識で決まったか、までである。決め直すのか、次に入れる道具から変えるのかは、その先の判断になる。

それでも、自社の事情が残るときは

「仕分けてみたが、どれが仕事の話でどれが操作の話なのか、境目がはっきりしない」「すでに動いている道具の設定を、いまから変えられるのかどうかが分からない」「言い換える役を担える人が、社内に見当たらない」——決めごとを一つ見たあとに出てくるのは、こうした問いである。道具の作りも、仕事の決まりも、会社ごとに違う。

そういうときは、OSAKA AI-Center の窓口に相談するという選択肢がある。何かを買う必要はなく、こちらから売り込むこともない。「うちはこの道具を、こういう決め方で入れて、いまこうなっている」——その実情から、どの決めごとを誰に聞き直すのかを整理するところまでが、この辞典の役割である。

うちの場合はどうなのか、という部分は残る。

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出典

この辞典について

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